【胸キュン♡プチ恋愛小説】冷徹な医師の心を溶かしたのは・・・(完)
2025/02/12
約19分(約9,400文字)
あらすじ:
冷たく完璧な医師、藤堂碧は職場で一目置かれる存在。学生時代からモテていたが、恋愛を「面倒」として気持ちのない関係を続けてきた。そんな彼が初めて心を揺さぶられたのは、同僚医師の瀬川真奈だった。誰にでも優しく、患者やスタッフから慕われる真奈の姿に、藤堂は知らず知らずのうちに惹かれていく。
一途に真奈を想い、これまでの女性関係をすべて清算し、真奈に真剣な愛を向ける藤堂。しかし、周囲からモテる藤堂に対し、真奈は「遊びではないか」と不安を抱く。誤解やすれ違いを乗り越え、クールだった藤堂が真奈を溺愛し、深い絆で結ばれていく。
職場恋愛の噂や困難を乗り越えながらも、互いを唯一無二の存在として愛し合う二人。冷たく凍っていた藤堂の心に、真奈という花が咲く――そんな一途な愛を描いた溺愛ラブストーリー。
キーワード:医師、冷徹男性、溺愛、オフィスラブ
主な登場人物
藤堂 碧(とうどう あおい)
32歳の優秀な医師。
職場恋愛は「面倒」と避け、言い寄る看護師や同僚女性には冷たく接している。学生時代からモテていたが、恋愛を「単なる遊び」として割り切り、気持ちのない関係を続けてきた。
ある日、ヒロインとの出会いをきっかけに「本気で愛する人」を初めて見つける。彼女にふさわしい男になろうと過去の女性関係を清算し、情熱的にアプローチを開始。クールな表情からは想像できないほどヒロインを溺愛し始める。
瀬川 真奈(せがわ まな)
29歳の同僚医師。
しっかり者で優しく、患者や職場の仲間から信頼される存在。控えめでありながら芯の強い性格で、周囲からの人望も厚い。恋愛にはあまり積極的でなく、自分に自信を持てずにいる一面もある。
最初は藤堂を「冷たくて近寄りがたい存在」と感じていたが、彼の情熱的なアプローチと真剣さに触れ、次第に惹かれていく。優しい人柄で、藤堂が溺愛するほどの愛おしさを持ちながら、周囲から嫉妬されることなく祝福される。
鈴木 美穂(すずき みほ)
30歳、看護師。
職場では明るくムードメーカー的存在だが、藤堂に片想いをしている。瀬川の友人でもあり、恋愛相談をよくしている。最初は藤堂と瀬川の関係に複雑な気持ちを抱くが、二人の真剣な想いを理解して応援するようになる。
高橋 和也(たかはし かずや)
32歳、藤堂と瀬川の同期医師。
気さくで誰からも好かれる性格。特に瀬川にとっては良き相談相手で、時折藤堂との仲を後押しする存在。友人として二人の恋を応援するが、彼自身も秘かに瀬川に好意を抱いている可能性を匂わせる場面も。
藤堂 美智子(とうどう みちこ)
藤堂碧の母。
厳格で格式を重んじる性格。息子には理想の女性を求めていたが、瀬川の人柄を知るにつれて彼女を認めるようになる。最終的には彼女を家族として歓迎し、温かいサポートをする。
目次
プロローグ
病院の廊下は、いつもと変わらない忙しさに包まれていた。行き交う白衣の姿、響き渡るアナウンス、微かに漂う消毒液の匂い。患者たちのために多くの人が慌ただしく動き回るこの場所で、藤堂碧もまた淡々と仕事をこなしていた。
「先生、今日のオペはどうされますか?」
「予定通り進める。準備を怠らないように。」
冷静な声で的確に指示を飛ばす藤堂に、周囲は慣れた様子で従っていく。彼は誰よりも優秀で冷徹な医師として知られており、その完璧さゆえに同僚や看護師たちから一目置かれていた。
しかし、同時にその冷たさと近寄りがたい雰囲気から、藤堂は“氷の医師”と密かに呼ばれていた。彼に好意を抱く女性は少なくなかったが、ことごとく冷たくあしらわれ、次第に諦めていく者も多い。
「恋愛なんて、面倒なだけだ。」
学生時代からモテてきた藤堂にとって、恋愛は無駄な時間だった。気持ちのない割り切った関係を続けることで、仕事に支障を来さないようにしてきた。だからこそ、どれほど女性たちが彼を慕おうと、彼の心が動くことは一度もなかった。
そんな藤堂の平穏な日常が変わるきっかけは、ある手術の日だった――。
第1章:冷たく完璧な医師・藤堂碧
手術室の中は、いつものように緊張感が張り詰めていた。
藤堂碧は無駄のない動きでメスを操り、周囲に的確な指示を飛ばしていく。その姿はまさに「完璧」を体現しており、スタッフ全員が彼に視線を集中させていた。だが、彼自身はそんな注目を意に介することもなく、ただ目の前の仕事に全力を注いでいる。
「次、クランプ。」
冷静な声が響き渡り、看護師が即座に器具を手渡す。どんなに慌ただしい場面でも彼の声には揺らぎがなく、医師としての実力と威圧感が自然と周囲を支配していた。
手術が終わると、藤堂はすぐに手袋を外し、無駄な言葉を交わすことなく手術室を後にする。スタッフの間で「お疲れ様でした」との声が飛び交うが、彼は一切応じることなく足早に医局へ向かった。その背中には「仕事さえきっちりやればそれでいい」という彼のスタンスが表れていた。
藤堂碧は職場で一目置かれる存在だった。優れた腕前と冷静沈着な判断力。人望という意味では彼の名は挙がらないが、それでも彼の能力を否定する者はいない。だが、その態度は女性たちからの人気の高さと相まって、「近寄りがたい」という印象を強めていた。
そんな藤堂とは対照的な存在が、瀬川真奈だった。
真奈は医局で患者のカルテに目を通していた。笑顔で看護師たちと会話しながら、周囲の雰囲気を和らげる役割を自然と担っている。誰にでも分け隔てなく接する真奈は患者からの信頼も厚く、スタッフ間での評判も良かった。
「真奈先生、さっきの患者さんだけど、次の検査のスケジュールを確認してもらえる?」
看護師から頼まれると、真奈はすぐに笑顔で応じる。「わかりました!後で確認しますね。」
一方、藤堂はその様子を目に入れながらも特に興味を示すことはなかった。
「気が利くが、特に印象に残らない。必要な時に動いてくれればそれでいい。」
彼にとって、真奈はそんな存在だった。
昼休み、真奈は食堂で別の医師たちと談笑していた。その様子を通りかかった藤堂は一瞥するものの、すぐに視線を外して足を止めることなく医局へ戻る。彼にとって職場での会話は必要最低限で良かったし、それ以上を求める気持ちもなかった。
恋愛も同じだ。
過去に何人かの女性と付き合ったことはあるが、その多くが形だけの関係に終わった。恋愛は「面倒なもの」という認識が強く、深く踏み込まれるのを避けるために自ら終わらせてきた。
「藤堂先生って、かっこいいけど冷たいよね。」
そんな看護師たちのささやき声が耳に入ることもあったが、気に留めることはない。それよりも、いかに効率よく仕事を進め、次の手術に備えるかが彼の優先事項だった。
だが、彼の中にはまだ気づかぬ感情が眠っていた。それが目覚める日は、すぐそこに迫っていた。
第2章:心を揺さぶる出会い
夜の病院は昼間とは異なる静寂に包まれている。だが、その静けさを突き破るように、救急の呼び出しが鳴り響いた。
「急患です!心臓破裂の疑い、直ちにオペが必要です!」
スタッフが駆け込んできた声を受け、藤堂碧は即座に立ち上がった。患者の情報を手に取りながら手術室へ向かう途中、聞き慣れた声が追いかけてくる。
「私も入ります。」
振り返ると、そこには白衣を整えながら駆け寄ってくる瀬川真奈の姿があった。彼女が急患対応に加わるのは珍しく、藤堂は少しだけ意外に思ったが、それ以上の感情を挟むことなく頷いた。
手術室では、一刻を争う緊張感が漂っていた。藤堂が冷静に指示を出し、手術は順調に進むかと思われたが、途中で出血量が予想以上に増え、難しい局面に差し掛かった。
「ドクター藤堂、血圧が下がっています!」
看護師が叫ぶと同時に、藤堂が次の手を打とうとした瞬間、横から真奈の冷静な声が響いた。
「ここをクランプしましょう。圧を一時的に抑えられます。」
藤堂がちらりと真奈を見やると、彼女は迷いのない目で状況を判断していた。その確信に満ちた声に押されるように指示を出し、彼女の提案通りに動く。すると、出血が抑えられ、状況が安定し始めた。
「……悪くない判断だ。」
短く呟いた藤堂に対し、真奈は笑みを見せることもなく、ただ次の作業に集中していた。
手術が無事に終わり、スタッフたちはそれぞれ解散していった。藤堂もいつものようにすぐに医局へ戻るつもりだったが、真奈の後ろ姿が目に留まり、その足が自然と止まった。
彼女は患者の家族のもとへ向かい、手術の経過を説明しているところだった。
「大変な状態でしたが、ドクター藤堂の迅速な対応で無事に危機を乗り越えることができました。」
真奈の声は温かく、落ち着いていた。家族が涙を流しながら感謝の言葉を口にすると、真奈はそっと彼らの肩に手を置き、「これからも一緒に支えていきましょう」と微笑んだ。その一言に、家族の表情が少しずつ和らいでいく。
藤堂はその光景を見つめながら、胸の奥に奇妙な感覚を覚えていた。これまで彼にとって、手術はただの「結果」であり、患者や家族の感情は付随的なものに過ぎなかった。しかし、真奈の姿には、それ以上の「何か」があった。
「……あの瀬川が、こんな顔をするのか。」
普段、無邪気に笑っているかと思えば、仕事ではこんなにも真剣に人と向き合う一面を持っている。そのギャップに気づいた瞬間、藤堂の中で何かが少しずつ動き始めた。
それから数日、藤堂は自分でも気づかぬうちに、真奈の姿を目で追うようになっていた。
廊下を歩く時、医局でカルテを確認する時、ふとした瞬間に彼女が目に入る。今まで「特に印象に残らない」と思っていたはずの彼女の仕草や言葉が、妙に心に引っかかる。
ある日、医局で藤堂が書類に目を通していると、背後から真奈の声が聞こえてきた。
「藤堂先生、この間の急患の件、お疲れ様でした。」
彼女はほんの少しだけはにかんだ笑顔を浮かべている。その表情に、藤堂は短い「ありがとう」を返しながらも、心臓が微かに高鳴るのを感じていた。
それが何を意味するのか、彼はまだ理解していなかった。
だが、その日から彼の心に真奈の存在が大きく刻まれていくことになるのだった。
第3章:過去との決別
藤堂碧は医局の窓から外を眺めていた。目の前には冬の冷たい空気が張り詰めたような青空が広がっているが、その視線は遠くを見つめていた。
彼女――瀬川真奈のことを考えるようになってから、藤堂は自分の中に変化を感じていた。それは心のどこかにある静かなざわめきであり、これまでの自分には無縁だった感情だった。
だが同時に、その感情は不安も伴っていた。彼は今まで、気持ちのない関係を続けてきた。学生時代からモテてきた彼にとって、恋愛は遊びであり、面倒くさいものに過ぎなかった。複数の女性と割り切った関係を続ける一方で、本気の恋愛や誠実さとは距離を置いてきた。
「……このままでいいわけがない。」
藤堂は呟くと、机の上に置かれたスマートフォンに手を伸ばした。そして、登録されている連絡先の中から、過去の関係者たちの名前を次々と削除していく。
彼女たちにとっても、自分にとっても、あの関係が誠実なものではなかったことは分かっている。だからこそ、過去を清算しなければならない。それが、真奈と向き合うための第一歩だと考えた。
数日後、藤堂は意を決して真奈に話しかけた。手術後、医局でカルテを整理している彼女を見つけると、深呼吸してから歩み寄る。
「瀬川先生。」
その声に、真奈は振り返る。「はい、何か?」と、彼女は穏やかに答えるが、少し警戒した様子が見て取れた。
「先日の手術の件だが……感謝している。君の判断がなければ、もっと危険な状況になっていたかもしれない。」
藤堂の硬い表情と言葉に、真奈は一瞬驚いたような顔をした。普段の冷たい印象とは違う彼の姿に戸惑いながらも、「そんな、私はただ当然のことをしただけです」と小さく微笑む。
「当然、か……。君は本当にそう思っているんだろうな。」
藤堂の声は低く、それ以上は言葉を続けなかった。だがその瞳には、これまでの冷淡さではない、どこか温かみのある光が宿っていた。
しかし、真奈の中ではまだ藤堂への印象は変わらなかった。
「藤堂先生って、やっぱり近寄りがたい。」
医局で一緒に働くスタッフたちの言葉を聞くたびに、真奈は彼に対して距離を置こうとする自分を感じていた。
「患者には優秀だけど、人としてはどうなのかな。」
そんな噂が耳に入ることもあったが、真奈は気に留めることはなかった。ただ、自分自身も彼に対して親しみを感じることができない。それは、彼の冷たさを見てきたからだろう――そう思っていた。
だが、一方で、彼女は気づいていなかった。藤堂が自分の過去を整理し、彼女に向き合おうとしていることを。そして、その変化の理由が、彼女自身にあるということを。
夜遅く、藤堂は一人きりの医局でデスクに向かっていた。彼の手元には、過去の記録ではなく、真奈とともに行った手術のカルテが広げられている。
「瀬川真奈……か。」
彼女の名前を小さく口にすると、胸の奥に微かな温かさが広がった。彼女に嫌われるのではないかという不安が消えたわけではない。だが、その不安すら、彼にとっては「真剣に向き合うための代償」だと感じていた。
彼の目は、どこか決意に満ちていた。過去を断ち切り、彼女に向き合う。そのためには、冷たい医師という自分の殻を破らなければならない。
「俺が変わるしかない。」
そう自分に言い聞かせ、彼はゆっくりと目を閉じた。
第4章:誤解と絆
病院の廊下を歩いていると、瀬川真奈は周囲の視線が自分に集まっているのを感じた。最近、看護師たちが小声で話す内容が耳に入るようになっていた。
「瀬川先生、最近ドクター藤堂と仲良いよね?」
「えー、まさか狙ってるとか?」
「真奈先生って、そういうタイプに見えないけど……」
気づかないふりをしながらも、その言葉は胸に刺さった。真奈は、自分が何かしただろうかと考えたが思い当たる節はない。だが、一つだけ明確だったのは、藤堂碧が最近、以前とは明らかに異なる態度を見せているということだ。
それは特別に優しいわけでもなければ、露骨に親しげというわけでもない。ただ、彼の視線や言葉に、彼女に対する興味や関心が感じられるのだ。そして、その微妙な変化が、周囲の目にどう映っているのかも察していた。
その日の昼休み、真奈は意を決して藤堂のもとを訪れた。
「藤堂先生、少しお話しできますか?」
医局で書類に目を通していた藤堂が顔を上げると、真奈は真剣な表情をしていた。
「何だ?」
藤堂の低い声に一瞬たじろぎそうになったが、真奈は勇気を振り絞った。
「最近、先生が私に親しくしてくれているのは分かっています。でも、そのせいで周りが余計な誤解をしているんです。」
彼女の言葉に、藤堂の眉がわずかに動いた。
「誤解?」
「ええ。看護師たちからの視線が痛いほど分かります。だから、これ以上私に特別な態度を見せないでください。」
真奈の声にはどこか悲しげな響きがあった。藤堂は黙って彼女の言葉を聞いていたが、その瞳には驚きと、少しの苛立ちが混じっていた。
「……分かった。」
それだけ言い残して、彼は書類に視線を戻した。真奈は、もっと何か言いたげだったが、結局何も言えずにその場を後にした。
数日後、真奈が担当する患者の容体が急変した。その患者は心臓の持病を抱えながらも安定していたはずだったが、突然の発作を起こし、緊急対応を迫られた。
手術は無事に終わり、患者は命を取り留めたものの、真奈は自分の判断が誤りだったのではないかと責任を感じ、深く落ち込んでいた。
医局で一人、彼女は机に突っ伏して涙をこらえていた。そこに、藤堂が静かに近づいてきた。
「瀬川先生。」
その低い声に、真奈は顔を上げた。目元は赤く、泣いた跡が残っている。
「……藤堂先生。」
彼女は絞り出すように答えたが、その声には力がなかった。藤堂は隣に腰を下ろし、しばらく黙ったまま彼女を見つめていた。そして、静かに言葉を紡ぎ出した。
「君の判断は間違っていなかった。」
真奈はその言葉に驚いて顔を上げる。
「でも、患者さんは……」
「医者である以上、どんなに最善を尽くしても、すべての結果をコントロールすることはできない。それでも君は、できる限りのことをした。それは俺が一番よく分かっている。」
藤堂の声はいつになく柔らかかった。その言葉に、真奈の胸の奥で固くなっていた何かが少しずつ解けていくようだった。
「それに……俺は君が頑張っている姿をずっと見てきた。だからこそ言える。君はいい医者だ。」
真奈の目に再び涙が浮かんだが、それは先ほどの涙とは違う種類のものだった。彼の言葉が胸に染み渡り、少しずつ力を取り戻していくのを感じた。
「ありがとう……ございます。」
小さな声で礼を言う彼女に、藤堂は微かに微笑んだ。
その瞬間、真奈の中で藤堂に対する印象が少しだけ変わった気がした。冷たくて近寄りがたい存在だと思っていた彼が、こんなにも人間らしく、温かい一面を持っていることに気づいたのだ。
その日を境に、二人の間に少しずつ新たな絆が生まれていくことになる――それは、まだ互いが気づかないほど微かなものであったが。
第5章:心を開く瞬間
夕焼けに染まる病院の屋上。真奈は、勤務後に藤堂に呼び出され、何か話があると言われていた。風が涼しく頬を撫でる中、藤堂は彼女の前で静かに口を開いた。
「……瀬川先生、今日は少し付き合ってほしい。」
「え?」
突然の誘いに、真奈は戸惑った。いつも冷静で素っ気ない彼が、自分を食事に誘うなんて予想外だった。
少し離れた静かなレストランに着いた二人。店内は落ち着いた雰囲気で、藤堂が選ぶ場所としては意外に感じた。食事を運ぶウェイターに軽く礼を言い、藤堂は真奈の方へ視線を戻した。
「ここ、気に入らなかったか?」
「いえ、そんなことはないです。ただ、ちょっと意外で……。」
「そうか。」
短い言葉に、真奈は少し微笑んだ。いつも冷たい印象の藤堂だったが、こうして二人きりでいると、意外なほどに彼の表情が柔らかいことに気づいた。
食事が進み、互いに日常の話を交わす中、藤堂はふと真剣な表情に変わった。そして、低い声で言った。
「俺には、君にどうしても話しておきたいことがある。」
「話しておきたいこと……ですか?」
「今まで、俺は恋愛というものを面倒だと思ってきた。学生の頃から周りにはいつも女性がいたが、誰一人として本気で向き合ったことはない。」
真奈は驚きながらも、彼の言葉に耳を傾けた。
「その結果、気持ちのない関係を続けてきた。本気の恋愛なんて必要ないと思っていたからだ。でも……君と出会って、そんな考えが一変した。」
藤堂の目は真奈を真っ直ぐに見つめていた。その視線には、嘘偽りのない感情が込められているように感じた。
「君がどんなふうに思うか分からないが、俺は君にだけは全て正直でいたいと思った。そして、この過去が君にとって受け入れられないものなら、ちゃんと諦める覚悟もある。」
真奈は目を見開いた。いつも冷静で完璧な藤堂が、こんなにも自分を曝け出す姿を見せるとは思わなかった。
「……そんなふうに考えてくれてたんですね。」
彼女は静かに口を開いた。その声はどこか震えていたが、確かな温かさを含んでいた。
「藤堂先生、確かに驚きました。でも、私には分かります。先生がどれだけ真剣に向き合おうとしてくれているのか。」
その言葉に、藤堂の表情がわずかに緩んだ。そして、真奈は続けた。
「私だって、まだ自信があるわけではありません。でも……先生を信じてみたいと思います。」
その瞬間、藤堂の目に浮かんだ安心感と喜びは隠しきれなかった。
その夜、店を出た二人は少しの間、静かに並んで歩いていた。夜風が心地よく、街の灯りが二人を優しく照らしていた。
「瀬川先生。」
「はい?」
「いや……真奈、と呼んでもいいか?」
彼女は少し頬を赤らめながら、控えめに頷いた。
「これからは、もっと君に向き合っていきたい。そして、俺のことも少しずつ知ってくれればいい。」
藤堂のその言葉に、真奈は心の中にじんわりとした温かさを感じた。
この日を境に、二人の関係は新たな一歩を踏み出した。藤堂碧が心を開き、自分の全てを真奈に捧げたいと願い、真奈がその想いを受け止め、信じてみようと思った瞬間だった。
第6章:溺愛の日々と未来
真奈と藤堂が交際を始めて数か月が経った。職場ではこれまでと変わらず冷静で完璧な医師として振る舞う藤堂だったが、真奈に対しては明らかに柔らかい一面を見せるようになっていた。
「真奈、これ持っていけ。」
朝のカンファレンス後、藤堂が彼女に差し出したのは温かい紅茶と一緒に添えられた小さなメモだった。そこには、達筆な字で「休憩中に少しでもリラックスしろ」と書かれている。
「ありがとう。でも……先生、こんなことしてたら周りにバレますよ?」
真奈は微笑みながら紅茶を受け取るが、どこか気まずそうな表情を浮かべた。
「別に構わない。俺は堂々としていたい。」
藤堂はあっさりと言い切る。
最初は二人の関係に対して、職場の一部のスタッフから好奇の目で見られることもあった。しかし、藤堂が以前とは打って変わり、真奈に対して真摯に接し、仕事にも一切の妥協を見せない姿に、次第に周囲の視線も温かなものへと変わっていった。
ある日、看護師長が真奈に話しかけた。
「瀬川先生、藤堂先生とお付き合いしてるって噂、本当なの?」
「えっ……あ、はい。」
「最初は驚いたけど、なんだか納得しちゃった。藤堂先生、あなたのことをすごく大切にしてるのが見て分かるもの。」
その言葉に、真奈はほっと胸を撫で下ろした。
そんなある日、藤堂は真奈を休日に連れ出した。普段は忙しい二人が一緒に過ごせる貴重な時間だ。向かった先は、静かな郊外にある庭園。満開の季節を迎えたバラが咲き誇るその場所で、藤堂は真奈をそっとベンチに座らせた。
「今日は、どうしても君をここに連れて来たかった。」
「素敵な場所ですね。ありがとうございます。」
藤堂は少し緊張した面持ちでポケットに手を入れると、そこから小さなケースを取り出した。そして、その中に入った指輪を真奈に差し出した。
「真奈、俺と結婚してくれ。」
彼の声はこれまでで一番穏やかで、しかし決意に満ちていた。真奈は一瞬驚いたものの、藤堂の目に込められた真剣な想いを感じ取り、静かに微笑みながら頷いた。
「はい、よろしくお願いします。」
藤堂はほっとした表情を浮かべ、指輪を真奈の薬指にはめた。その手をそっと包み込みながら、「一生、君を大切にする」と誓った。
結婚式は小さなチャペルで行われた。真奈の家族、藤堂の母、そして職場の同僚たちが祝福に駆けつける中、二人は永遠の愛を誓い合った。
真奈の父は涙を浮かべながら、藤堂にこう言った。
「真奈を頼む。彼女が選んだ相手なら安心だ。」
一方、藤堂の母は息子に微笑みながら、「碧がこんなに幸せそうな顔をするのは初めて見たわ」と静かに呟いた。
結婚式を終えた後、二人は夜空に輝く星を眺めながら並んでいた。
「これからもずっと、君と一緒にいたい。」
「私も、先生とならどんな未来でも楽しみです。」
お互いの手を強く握りしめたその瞬間、二人の未来は確かに一つになった。溺愛の日々と幸せに満ちた未来が、これから始まるのだと感じながら。
エピローグ
――それから数年後。
晴れ渡る青空の下、庭に咲き誇る花々の香りが漂う中、真奈は庭に設けた小さなテーブルに座っていた。膝の上には愛らしい赤ちゃんが眠っている。頬をぷくりと膨らませたその表情に、真奈は思わず微笑んだ。
「よく寝てるな。」
聞き慣れた声に顔を上げると、藤堂が庭仕事用の手袋を外しながら近づいてきた。相変わらず精悍な顔立ちだが、以前よりもどこか柔らかな雰囲気をまとっている。
「お疲れさま。庭、すごく綺麗になったね。」
「せっかく君が育てた花だからな。きちんと手入れしないと怒られると思って。」
藤堂は冗談めかして言いながら真奈の隣に腰を下ろした。そして、そっと赤ちゃんの頬を撫でる。
「この子もよく寝るな。俺のことは好きじゃないのかもな。」
「そんなことないよ。あなたが抱っこすると安心して寝ちゃうんだもの。」
真奈の言葉に、藤堂は照れたように目を逸らした。それでも、赤ちゃんを見つめる眼差しは限りなく優しい。
***
その後、二人は一緒にコーヒーを飲みながら、これまでの出来事を思い返していた。
思えば、藤堂が冷徹で近寄りがたい存在だった頃からは想像もつかない穏やかな日々だ。真奈はふと彼の手を取り、小さく呟いた。
「先生とこうやって一緒にいると、不思議な気持ちになるよ。最初は怖い人だと思ってたのにね。」
「俺も、君にこんなふうに心を開くなんて想像もしなかった。だけど、今は……君とこの子が俺のすべてだ。」
藤堂は真奈の手を強く握り返す。その瞳には、かつて職場で見せていた冷たい光は一切なく、愛情と幸福が溢れていた。
「これからも、ずっと一緒に。」
「うん、ずっと一緒に。」
二人の手を繋ぐ先には、明るく広がる未来が待っている。溺愛する日々も、困難な日々も、一緒に乗り越えられる。そう確信しながら、藤堂と真奈は新たな一歩を踏み出していく。
庭の向こうに広がる青空は、これから始まる幸せな時間を祝福するかのように、どこまでも澄み渡っていた――。
(完)
最後までご覧いただきまして、ありがとうございました!
前作『空から届いたメッセージ~最後の贈り物~』の緒方奏の同僚の設定という形で描こうとしていたのに、絡ませることをすっかり忘れてしまっていました(苦笑)
次回作は、シングルマザーの再婚ストーリーを描きたいと思います!お楽しみに!!
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