【胸キュン♡プチ恋愛小説】イケメン同期とクールな上司の狭間で(完)
2025/01/04
ジャンル:三角関係、オフィスラブ、上司×部下、年上男性
約47分(約23,800文字)
あらすじ:
広告代理店で働く佐藤結花は、同期の高橋涼介とペアを組んで日々仕事に励む、平凡ながらも充実したOL生活を送っていた。しかし、厳しくも頼れるエリート上司・小野寺颯真の思わぬ優しさに触れた瞬間、結花の心は少しずつ乱れ始める。
明るく爽やかな同期の笑顔と、冷静で大人な上司の視線の間で揺れる結花。仕事も恋も大波乱のオフィスで、結花が最後に選ぶのは誰――?
笑いあり、キュンキュンありの甘々三角関係ラブコメディ!
主な登場人物
主人公:佐藤 結花(さとう ゆいか)
- 26歳のOL。広告代理店で営業を務める。
- 明るく気配り上手で、同期や上司からも信頼される存在だが、恋愛にはやや奥手。
- 趣味はお菓子作り。笑顔で周囲を癒す「職場のアイドル」的存在。
同期:高橋 涼介(たかはし りょうすけ)
- 26歳の営業マン。結花の同期で仕事でもペアを組むことが多い。
- イケメンで、爽やかで人懐っこく、取引先にもモテる。結花のことを密かに気にしており、彼女をサポートするのが自然にできるタイプ。
- 趣味はサーフィンとカメラ。カジュアルで親しみやすい性格が魅力。
上司:小野寺 颯真(おのでら そうま)
- 35歳の営業部課長。成績優秀で、仕事への厳しさと完璧な容姿で社内の憧れの的。
- 冷静沈着だが、実は部下想い。結花を密かに気にかけているが、年齢差や立場を考えて距離を保とうとしている。
- 趣味はクラシック音楽とゴルフ。落ち着いた大人の雰囲気。
目次
プロローグ:運命のはじまり
月曜の朝。広告代理店のオフィスには、コーヒーの香りと忙しないキーボードの音が響いていた。佐藤結花は自分のデスクで資料をチェックしながら、頭の中で今日のスケジュールを整理している。同期の高橋涼介が近づいてきたのは、ちょうどその時だった。
「おはよう、結花。今日のプレゼン、緊張してないか?」
涼介の声はいつものように明るく、どこか安心感を与える。
「おはよう、涼介。うーん、正直ちょっと緊張してるかも。でも、頑張る!」
結花は笑顔で答えたが、内心はプレゼンの成功への不安でいっぱいだった。
「俺もフォローするから安心しろって。それに、あの課長もいるしな。」
涼介が視線を向けた先には、営業部の課長・小野寺颯真が立っていた。スーツ姿が誰よりも似合う颯真は、部下たちに厳しくも頼れる存在だ。しかし、結花にとってはその冷静さが少し怖く感じることもあった。
「そうだね、颯真課長がいれば大丈夫…かな。」
結花がそう呟くと、颯真がこちらに近づいてきた。
「佐藤、今日の資料は準備できているか?」
颯真の低く落ち着いた声に、結花は慌ててファイルを手に取る。
「はい、こちらです!チェックも済ませてあります!」
緊張しながら渡すと、颯真は少し目を細めてファイルに目を通す。
「悪くない。だが、もう少し構成を工夫すれば説得力が増すだろう。」
颯真は的確な指摘をし、軽く結花の肩に手を置いた。その瞬間、結花の胸が少しだけ高鳴った。
「わかりました、修正します。ありがとうございます。」
結花が礼を言うと、颯真は軽く頷き、その場を離れた。
涼介はそんな二人のやり取りをじっと見つめていたが、口元には少し笑みを浮かべている。
「結花、お前って本当、誰からも信頼されてるよな。」
「え?そんなことないよ。ただ、ちゃんとやろうとしてるだけ。」
照れる結花に涼介は肩を軽く叩き、「そういうとこ、すげーなって思う」と真顔で言った。
彼の言葉に結花は一瞬息を飲む。だが、その感情の正体を考える余裕もないまま、仕事の時間が始まった。
第一章:同期の優しさ、上司の厳しさ
プレゼンは無事に終了した。結花の心臓はドキドキと高鳴っていたが、手応えは悪くない。取引先の担当者たちも頷きながら資料に目を通してくれていたし、質問にもなんとか答えられた。
「よくやった、佐藤。初めてのプレゼンにしては上出来だ。」
プレゼン後、颯真が低い声でそう言いながら微かに笑みを浮かべた。普段は厳しい彼からのこの一言に、結花はホッと胸を撫で下ろす。
「ありがとうございます!でも、課長のアドバイスがなかったら絶対にうまくいきませんでした。」
素直に感謝を伝える結花に、颯真は「謙虚だな」と一言だけ返し、すぐに席を立った。その背中を見送りながら、結花はふと彼の冷静な態度の裏に隠された優しさを感じた気がした。
「結花!」
控え室を出た瞬間、待っていた涼介が手を振りながら駆け寄ってきた。
「お疲れさん!お前、めっちゃ良かったじゃん。俺、感動したぞ!」
彼の言葉に、結花はつい笑みを零す。
「ありがとう。でも、涼介が事前にいろいろ助けてくれたおかげだよ。」
「おいおい、謙虚すぎるって。まあ、そういうとこが結花らしいけどな。」
涼介は照れくさそうに頭を掻きながらも、結花を見つめる目は真剣だった。
「そうだ。今日、残業ついでに軽く飯でも行かないか?」
涼介が軽い調子で誘ってきたが、彼の言葉にどこか本気が混じっているのを結花は感じた。
「えっと…」
答えに困った瞬間、颯真が横から口を挟んできた。
「佐藤、午後の会議までにこの資料をまとめておいてくれ。」
颯真が差し出したファイルを受け取りながら、結花は「わかりました」と頷く。
「あ、俺が手伝うよ!」
涼介がそう言うと、颯真の目が一瞬鋭く光った。
「高橋、お前も自分の仕事が山積みだったはずだが。」
「まあ、それはそうですけど…。結花が困ってるなら、助けるのが同期じゃないですか。」
涼介は軽く笑いながらも、颯真に対しては少し挑戦的な目を向けていた。
「佐藤に過剰な負担をかけるつもりはない。ただし、彼女の仕事は彼女自身が責任を持つべきだ。」
颯真の冷静な言葉に、涼介は一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに結花の方を向いて「手伝えることがあったらいつでも言えよ」と優しく言ってくれた。
結花は二人の間に漂う微妙な空気を感じながらも、「ありがとう」とだけ答え、資料を手に自分のデスクへ戻った。
第二章:二人の距離感
その日の夕方、結花は残業を終え、一人で社内のカフェスペースにいた。涼介の誘いを断った後、なんとなく彼の優しさと颯真の厳しさの違いが頭をよぎる。
「どっちも頼れるけど、なんだろう…。」
自分の胸の中でわだかまる感情に整理がつかないまま、結花はコーヒーをすすった。
「まだここにいたのか。」
突然聞こえた声に振り向くと、そこには颯真が立っていた。
「課長、まだお仕事中ですか?」
「いや、今終わったところだ。だが、部下が遅くまで残っているのを見逃すわけにはいかない。」
颯真はそう言いながら、結花の向かいの椅子に腰を下ろした。
「今日のプレゼン、よく頑張ったな。」
唐突な言葉に、結花は驚きつつも「ありがとうございます」と礼を述べる。
「ただ、これからもっと大きな案件を任されることもあるだろう。その時は、今日以上にプレッシャーがかかるはずだ。だが…」
颯真は少しだけ視線を下げ、柔らかな口調で続けた。
「お前ならできる。俺はそう思っている。」
その一言に、結花の心臓が大きく跳ねた。颯真がこんなふうに自分を信じてくれているとは思っていなかったからだ。
「ありがとうございます…。課長にそう言われると、自信が出ます。」
颯真の言葉に励まされ、結花は自然と笑顔を浮かべた。その笑顔に颯真が一瞬目を見開いたのを、結花は見逃さなかった。
そんな二人の様子を、オフィスの隅から涼介がじっと見つめていたことに、結花はまだ気づいていなかった。
結花が颯真に微笑み返したその瞬間、彼のスマートフォンが震えた。颯真はちらりと画面を確認し、「すまない、少し電話を取ってくる」と立ち上がった。
颯真が離れた後、結花は残されたカフェスペースで一人、心の中に芽生えた奇妙な感情を整理しようとしていた。
「課長って、冷たい人だと思ってたけど…本当は優しいんだな。」
彼の言葉ひとつひとつが、自分の中で大きく響いていることに気づき、結花は少しだけ頬を赤らめた。
そんな結花の様子を、近くの柱の陰から涼介がじっと見つめていた。
第三章:同期の積極的なアプローチ
翌朝。結花が出社すると、デスクには小さなメモと可愛らしいマフィンが置かれていた。
「昨日頑張ったご褒美。疲れたら甘いものでも食べて元気出せよ。」
涼介からだ。結花は思わずクスリと笑いながらメモをポケットにしまい、マフィンを手に取った。
その瞬間、涼介が近づいてきた。
「おはよう、結花。昨日はちゃんと寝られたか?」
「おはよう、涼介。うん、しっかり寝たよ。マフィン、ありがとう。」
「どういたしまして。俺、甘いもの好きな結花のこと知ってるからさ。」
涼介は悪戯っぽく笑いながら、彼女の反応を楽しんでいる様子だった。
結花が何か返そうとしたとき、颯真がいつものようにクールな表情で会議室から現れた。
「佐藤、高橋。お前たち、今日の午後の案件について簡単に打ち合わせをしておけ。」
颯真の指示に二人は「わかりました」と答えるが、その後、颯真の視線がふと結花の手元に止まる。
「それは…何だ?」
「え?あ、これですか?涼介がくれたんです。」
結花がマフィンを見せると、颯真の眉がほんのわずかに動いた。
「そうか。無駄なカロリーを摂りすぎないように気をつけろ。」
それだけ言い残し、颯真はその場を離れた。
「うわ、課長嫉妬してる?」
涼介が小声で冗談を言うと、結花は慌てて「そんなわけないでしょ!」と否定したが、心の中では颯真の言葉が少しだけ引っかかっていた。
第四章:揺れる心
午後の打ち合わせが終わった後、涼介が突然提案してきた。
「なあ、結花。今日は仕事が早く終わりそうだし、ちょっと寄り道しないか?」
「寄り道?」
「そう、最近できたカフェ。めちゃくちゃおしゃれで、スイーツも美味しいらしいんだよ。」
結花は少し迷ったが、「いいよ」と頷いた。最近、涼介と二人で話す時間が増えているが、それが心地よく感じられるのも事実だった。
カフェに到着すると、涼介は自然に結花の隣に座り、リラックスした表情で話し始めた。
「お前さ、最近すごい頑張ってるよな。プレゼンも完璧だったし。」
「そんなことないよ。まだまだ課長に助けられてばっかりだし。」
「課長、ね。」
涼介が少しだけ表情を曇らせた。
「結花ってさ、ああいうタイプの人が好きだったりする?」
「えっ?」
思わぬ質問に、結花はマカロンを食べる手を止めた。
「いや、別に。俺は結花がどんな相手を選ぶか気になってるだけ。」
涼介はいつもの明るい笑顔を浮かべているが、その目にはどこか不安が滲んでいるように見えた。
結花はなんと答えていいかわからず、ただ「まだそんなこと考えたことない」と小さな声で答えた。
第五章:冷静な上司の心の揺れ
翌日、颯真はいつもの冷静な表情でデスクワークをこなしていたが、心の奥では昨日見かけた結花と涼介の楽しそうな姿が引っかかっていた。
「佐藤があんなふうに笑うのは珍しいな。」
自分では気づいていなかったが、颯真の視線は自然と結花に向いてしまう。そんな自分を律するかのように、颯真は深く息を吐き出した。
そのとき、結花が颯真の席に近づいてきた。
「課長、これ今日の資料です。」
「ご苦労。」
受け取った資料に目を通しながら、颯真は思わず声をかけた。
「昨日、高橋とどこかに行っていたのか?」
「え?あ、はい。カフェに…」
言いかけた結花は、颯真の視線の強さに少し戸惑った。
「そうか。あまり遅くならないようにしろ。部下の安全を管理するのも上司の責任だからな。」
颯真の言葉はどこか余計に厳しく響き、結花は思わず頷いた。
その一瞬、颯真の目に見えたのは、結花が他の男と楽しそうに笑っている姿だった。そして、その光景が彼の心に微かな痛みをもたらしていたことを、颯真はようやく自覚した。
第六章:颯真の一歩
週末。結花は自宅で休日を過ごしていたが、心はどこか落ち着かないままだった。涼介との軽快な会話も、颯真の厳しさの中に隠された優しさも、どちらも頭をよぎる。
「私、どっちが気になってるんだろう…。」
結花がそんなことを考えていると、不意にスマートフォンが震えた。画面には「颯真課長」の名前が表示されている。
「え…課長?」
休日に颯真から連絡が来るのは初めてだった。電話を取ると、颯真の低く落ち着いた声が聞こえた。
「佐藤、突然すまない。今、少しだけ時間があるか?」
「はい、大丈夫ですけど…何かありましたか?」
颯真の声色から、ただ事ではない雰囲気を感じ取った結花は、緊張しながら返事をした。
「少しだけ会いたい。直接話したいことがある。」
そう言うと、颯真は近くのカフェで待っていると言い、電話を切った。
結花が颯真の指定したカフェに到着すると、彼は窓際の席で静かに座っていた。休日にもかかわらず、彼はいつも通りきちんとしたジャケットを着ている。
「すみません、お待たせしました。」
結花が席に着くと、颯真は少しだけ口角を上げ、「いや、俺が突然呼び出したんだ。気にしなくていい」と答えた。
しかし、その表情はいつもより硬い。
「何か、ありましたか?」
結花が尋ねると、颯真は少しだけ視線を逸らし、意を決したように口を開いた。
「…お前と高橋が最近よく一緒にいるのを見て、俺は少し焦っている。」
「え?」
突然の言葉に、結花は驚きで声を漏らした。
「俺はお前に対して、ただの部下以上の感情を抱いている。」
颯真の真剣な目が結花を射抜く。その眼差しに、結花の心臓は大きく跳ねた。
「佐藤、俺はお前を大事に思っている。他の誰にも渡したくない。…そう思っている自分に気づいた。」
結花は何か返そうとしたが、言葉がうまく出てこない。ただ、自分の心の中で膨らんでいた感情が、颯真の言葉によって一気に形を成した気がした。
「課長…それって…」
そのとき、カフェの入り口から入ってきた人物に、二人の会話は遮られた。
「結花!…あれ、課長?」
そこに立っていたのは涼介だった。
第七章:同期の挑戦
「涼介…なんでここに?」
驚く結花に、涼介は少し困ったように笑みを浮かべた。
「いや、たまたま近くを通りかかったら、お前の姿が見えたからさ。気になって入ってみたら、なんと課長と一緒だなんてな。」
その言葉には軽さがあったが、目は二人を鋭く見つめていた。
「高橋、お前こそ休日に同期の行動を気にするなんて、随分熱心だな。」
颯真が冷静な声で返す。
「いやいや、心配するのは当然でしょ。同期の女の子が課長と一緒にいたら、何かあったのかって思うだろ?」
涼介の言葉には笑いが混じっているが、その笑みの裏には明らかな挑発があった。
結花はその場の空気に緊張し、思わず二人を交互に見つめた。
「まあ、課長。俺がいると邪魔ですよね?でも、せっかくなんで一緒にコーヒーでも飲みますか。」
涼介はそう言いながら結花の隣に座った。その行動に、颯真の表情がわずかに険しくなる。
「高橋、これは仕事の話ではない。俺と佐藤の個人的な会話だ。」
颯真の冷たい声に、涼介も真剣な表情を浮かべた。
「個人的な会話、ね。じゃあ、俺も聞いていいかな?俺だって結花の大事な同期なんだから。」
颯真は静かに涼介を見据えた。いつもの冷静さを保ちながらも、その目には揺るぎない意志が宿っている。
「高橋。お前が同期として佐藤を大事に思っているのはわかる。ただ、これは俺と佐藤の問題だ。」
「課長…」
涼介は言い返そうと口を開きかけたが、颯真の言葉に圧されて口を閉じた。その沈黙を見計らうように、颯真は結花に向き直った。
「佐藤。俺はお前がどう思っているかを知りたい。ただそれが簡単な答えではないことも理解している。」
颯真の低く落ち着いた声が結花の胸に響く。
「だが、俺はこの気持ちを中途半端にはできない。仕事でお前を支える以上に、個人としてお前を守りたい。お前の隣にいるのは、俺でありたいんだ。」
結花は颯真の真剣な表情に息をのんだ。普段の仕事中とはまるで違う、彼の内に秘めた熱い思いを初めて感じた気がした。
「課長…そんな風に思ってくれていたなんて…」
結花が動揺を隠せないまま言葉を紡ごうとしたその時、涼介が割って入った。
「結花。俺もお前に伝えたいことがあるけど…今日は一旦引くよ。課長の言葉をちゃんと聞いてやれ。」
そう言うと、涼介は席を立ち、軽く肩をすくめてカフェを出ていった。しかし、その背中には明らかな悔しさが滲んでいる。
第八章:揺れる気持ち
「高橋はお前にとって信頼できる同期だ。それは俺もわかっている。」
涼介が去った後も、颯真は落ち着いた声で話し続けた。
「だからこそ、俺はお前の意思を尊重する。ただ、俺の気持ちを知っておいてほしい。それが今日ここに呼んだ理由だ。」
結花は胸の中で複雑な感情が渦巻くのを感じていた。颯真の言葉は確かに真摯で、彼の不器用な優しさが伝わってくる。しかし、涼介の軽やかで心地よい存在感もまた、自分にとって大きな支えになっていることは否定できない。
「私、正直に言うと…まだ自分の気持ちがわかりません。でも…」
結花は勇気を振り絞って言葉を続けた。
「課長がそうやって真剣に話してくれるのは、すごく嬉しいです。」
颯真はその言葉を静かに聞きながら、小さく頷いた。
「わかった。お前の答えを急がせるつもりはない。ただ、俺はこれからもお前を見守り続ける。」
その言葉には、颯真らしい堅実な誠実さが込められていた。結花はその姿を見て、心が少しだけ温かくなるのを感じた。
第九章:涼介の再アプローチ
週明け。結花は颯真の真剣な言葉が頭から離れず、仕事中もつい考え込んでしまっていた。そんな結花の様子を察したのか、隣の席に座る涼介が声をかけてきた。
「結花、最近元気ないけど大丈夫か?」
いつもの明るい声で話しかけてくる涼介に、結花は思わず苦笑いを浮かべた。
「いや、ちょっと考え事してただけ。」
「ふーん。課長と何かあったんじゃないの?」
涼介は冗談めかした口調だが、その視線は鋭い。
「えっ、そ、そんなことないよ!」
結花は慌てて否定したが、その反応を見て涼介はさらにニヤリと笑った。
「隠さなくていいって。でも、俺だってまだ諦めたわけじゃないからな。」
「え?」
涼介の突然の言葉に結花は戸惑い、顔を赤くしてしまう。そんな彼女の反応を見て、涼介は軽くウインクした。
「今週末、空いてるだろ?デートしよう。」
「えっ、デ、デート?」
「そう。俺もちゃんと気持ちを伝えたいんだよ。」
涼介の軽い言い方に隠された真剣さを感じた結花は、一瞬言葉を失った。しかし、そんな彼の強引さに抗うこともできず、結局その場で頷いてしまった。
第十章:二人の休日
土曜日。結花はいつもより少し華やかなワンピースを着て、涼介と待ち合わせた駅前に立っていた。涼介はカジュアルながらも清潔感のある服装で現れ、いつも以上にキラキラと輝いて見える。
「おっ、似合ってるじゃん。その服。」
「ありがとう。でも、こんなちゃんとしたデート、久しぶりかも。」
「へえ、俺が久しぶりの相手ってわけだ。光栄だね。」
二人は少し照れた様子で話しながら、涼介が選んだレストランへ向かった。ランチを終えた後、彼は結花を自然公園に連れて行った。
「なんか、昔に戻ったみたいじゃない?社会人になる前って、もっと気楽に遊べたよな。」
涼介は風に揺れる木々を眺めながら言った。その横顔を見て、結花は少し切なくなった。
「涼介、私たち同期なのに、なんだか不思議な感じだね。こうやって二人でいると…。」
「そうだな。でも、俺にとってお前はただの同期じゃないよ。」
涼介は立ち止まり、結花の方を真剣な目で見つめた。
「俺、お前が好きなんだ。ずっと前から。」
結花はその言葉に驚き、何かを言おうとしたが、涼介が続けて話した。
「課長がどうとか、そんなの関係ない。俺はお前と一緒に笑ってたいし、お前を幸せにしたいって本気で思ってる。」
涼介の真っ直ぐな言葉に、結花は胸がいっぱいになった。彼の明るさに支えられていたことを改めて実感し、心が揺れる。
「涼介…ありがとう。でも、私…まだ自分の気持ちが…。」
「わかってるよ。お前が決めるまで、俺は待つ。でも今日はただ、俺の気持ちを伝えたかった。」
その後、公園を散歩しながら、二人は学生時代の話や仕事の愚痴を話して笑い合った。涼介の温かさに触れる中で、結花の心はさらに迷い始める。
第十一章:揺れる職場の空気
週明け、オフィスに出勤した結花は、涼介と颯真の間に漂う微妙な緊張感を感じ取った。
普段なら涼介が颯真に軽口を叩き、颯真が冷静にいなしながらもどこか楽しげなやり取りをしている。しかし今日は、涼介がやたらと結花に話しかける一方で、颯真はほとんど視線を合わせようとしない。
「結花、今日の午後、資料の打ち合わせあるよね。終わったら一緒にランチ行こうぜ。」
「え?あ、うん…。」
涼介の自然な誘いに結花は戸惑いながら頷いた。けれども、そのやり取りを颯真が遠くからじっと見ていたのに気づき、胸がざわつく。
午後のミーティング中、颯真は一段と鋭い目つきで資料に目を通していた。いつも以上に厳格な指摘が飛び、結花や他のメンバーも気圧されてしまう。
「佐藤、この資料の統計部分、何度も確認するように言ったはずだろう?」
「す、すみません。すぐに修正します…!」
颯真の冷たい口調に、結花はショックを受けた。仕事に対して厳しいのはいつものことだが、今日はまるで個人的な感情が混ざっているように感じた。
ミーティングが終わると、結花は慌てて颯真に声をかけた。
「課長…さっきの資料、確認が甘くて本当に申し訳ありませんでした。でも…何かお疲れなんじゃないですか?」
颯真は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに冷静な表情を取り戻した。
「俺の疲れは関係ない。お前が自分の仕事に責任を持つことだけを考えろ。」
それだけ言うと、颯真は振り返ることなく会議室を出て行った。
その後、涼介とのランチタイム。カフェで向かい合う二人だったが、結花の心は颯真とのやり取りが引っかかり、集中できない。
「なんか元気ないな。さっき課長に怒られた?」
「うん…私が悪かったんだけど、今日の課長、なんだかいつもと違う気がして。」
涼介は一瞬黙り込み、コーヒーを口に運んだあと、真剣な表情で口を開いた。
「それさ、結花のこと意識してるからだと思うよ。」
「え?」
「俺がこうやってお前と一緒にいるのが気に食わないんだろうな。課長、ああ見えて意外と不器用だからさ。」
結花は涼介の言葉に驚きながらも、どこか納得している自分に気づいた。確かに颯真の態度はこれまでと違う。けれども、それが本当に自分への感情から来ているのかどうかはわからない。
「でも、もしそうなら…どうすればいいのかわからないよ。」
「簡単だよ。」
涼介はニヤリと笑いながら、テーブルに手を置いた。
「俺を選べばいい。それだけで、悩む必要なんかない。」
涼介の軽い言い方に見せかけた真剣さに、結花の心は再び揺れ動いた。
第十二章:揺れる心の行方
ランチから戻ると、結花は意を決して颯真に話しかけることにした。彼の態度の真意を確かめたいと思ったからだ。
「課長、少しお話できますか?」
颯真は忙しそうに資料を整理していたが、結花の真剣な表情に気づいて頷いた。
「わかった。会議室で話そう。」
会議室で二人きりになると、結花は緊張しながら口を開いた。
「今日のミーティングでの態度、なんだかいつもと違っていた気がして…。もし私が原因で何か不快な思いをさせているなら、謝りたいです。」
颯真は一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐにため息をついた。
「お前のせいじゃない。俺自身の問題だ。」
「課長…?」
颯真は結花を真っ直ぐに見つめ、少しだけ口元をほころばせた。
「お前に高橋のように軽やかに接することはできない。でも、俺は…お前が涼介と一緒にいるのを見るのが、思った以上に辛いんだ。」
結花はその言葉に息を飲んだ。颯真の心の奥底にある感情が、少しだけ垣間見えた気がした。
第十三章:新プロジェクトの幕開け
翌週の月曜日、朝の全体ミーティングで颯真から新しいプロジェクトが発表された。クライアントが大手企業ということもあり、部署全体での大掛かりな取り組みとなることが予想される。
「今回のプロジェクトのリーダーには高橋を任命する。サブリーダーは佐藤だ。二人でチームをまとめ、スムーズに進めるように。」
颯真の言葉にオフィス内がざわめく。高橋涼介と佐藤結花は同期として有名で、普段から仲がいい二人がリーダーとサブリーダーになるのは順当なようでいて、どこか周囲の興味を引いていた。
涼介は発表を聞いて、余裕の笑みを浮かべながら結花の方を見た。
「頼むぜ、サブリーダーさん。」
結花も頷いたが、その目はどこか不安げだった。一方で颯真はあえて涼介と結花のコンビを組ませたようにも見えるが、その意図は誰にもわからない。
プロジェクト初日:険しい道のり
プロジェクトの内容は、新製品のブランディングとプロモーション戦略を提案するものだった。多忙なスケジュールと膨大なタスクに、チーム全員が初日からピリピリした雰囲気に包まれていた。
「この分担表、ちょっと見直したほうがいいんじゃない?」
「いや、これで進めた方が効率的だと思うけど。」
涼介と結花の間で意見が分かれる場面が増えた。普段は仲が良い二人だが、仕事となるとそれぞれのアプローチが異なり、衝突が生じる。
「結花、お前も一度俺を信じて任せてみろよ。」
「信じてないわけじゃないけど、全体のバランスを考えると…。」
結花は冷静に返すが、涼介は少し不満そうな顔をしていた。そのやり取りを遠くから見ていた颯真は、口を挟むことなくただ様子を伺っている。
プロジェクトが進む中で、クライアントとの初回プレゼンを迎えることになった。その準備段階で、資料の一部に不備が見つかり、チーム全体が混乱する。
「高橋、この部分の統計データ、どうなってる?」
「いや、確かに確認したはずなんだけど…。」
「確認不足だよ!これじゃクライアントに説明できない!」
結花が焦りのあまり声を荒げた瞬間、颯真が静かに会議室に入ってきた。
「どうした?」
颯真の低い声が場を引き締める。結花と涼介は顔を見合わせ、状況を説明した。
「データの整合性が取れていなくて…私の確認ミスです。」
結花が申し訳なさそうに言うと、颯真は一瞬彼女を見つめ、淡々と言った。
「結花、お前が責任を感じる必要はない。チームの責任だ。高橋、お前ももっと全体を見ろ。リーダーだろう。」
厳しいが的確な言葉に、涼介は黙って頷いた。その後、颯真が素早く指示を出し、不備の修正に全員で取り掛かることになった。
プロジェクトの中で芽生える感情
プレゼンが無事に終わり、チーム内には安堵の空気が流れていた。涼介も結花も、何とか乗り越えられた達成感を共有する一方で、それぞれの中に新たな感情が芽生えていた。
夜、残業が終わり、結花は帰り際に颯真に声をかけられた。
「佐藤、少し話がある。」
「はい。」
颯真に誘われてオフィスの隅で話し始める。
「お前、いい仕事をしたな。高橋とぶつかりながらも、全体をよくまとめていた。」
「そんな…課長が指示をくださらなかったら、きっとまとまりませんでした。」
結花が謙虚に答えると、颯真はふっと微笑みながら言った。
「俺はただ補佐をしただけだ。お前の強さを見せてもらったよ。」
その言葉に結花の胸が熱くなり、颯真への想いがまた少し強くなるのを感じた。
一方、涼介もまた、プロジェクトを通じて結花への思いがより真剣になっていた。彼は改めて結花に向き合う決意を固め、次の行動に出ることを考えていた。
第十四章:颯真との距離が縮まる夜
プロジェクト終了後の金曜日の夜、チームの打ち上げが開催された。居酒屋でリラックスした雰囲気の中、涼介はいつも通りの明るさで盛り上げ役を務め、結花も笑顔を見せていた。
だが、颯真は少し離れた席で静かに飲みながら、時折結花と涼介のやり取りを眺めている。視線が合うと、結花はどこか気まずそうに目を逸らした。
打ち上げ後、二人きりの帰り道
打ち上げがお開きになり、結花は駅へ向かって歩いていた。すると後ろから颯真の声が聞こえる。
「佐藤。」
振り返ると、颯真が一人で結花を追いかけてきていた。
「課長…?どうしたんですか?」
「少し話せるか?送っていくついでに。」
結花は戸惑いながらも頷いた。颯真と二人で歩くのは初めてのことだった。
「プロジェクト、本当によく頑張ったな。」颯真が静かに切り出す。
「ありがとうございます。でも、まだまだ課長のようには…。」
結花が答えると、颯真は軽く笑いながら言った。
「俺のように、か。そんなふうに言われると、少し照れるな。」
颯真が冗談めかして言うのは珍しいことで、結花は思わず笑みをこぼした。
しばらく歩いた後、颯真が足を止めた。そして、真剣な目で結花を見つめる。
「佐藤、お前には感謝している。」
「え…?」
突然の言葉に驚く結花。
「俺はずっと部下を引っ張る立場で、自分の弱さを見せられないと思ってきた。でもお前と働いていると、自分がどうあるべきかを改めて考えさせられるんだ。」
颯真の低い声が静かな夜に響く。
「お前の存在が俺にとって特別だって気づいたのは、きっとお前が他のやつと笑ってる姿を見たときだ。…特に高橋と。」
颯真の不器用ながらも誠実な言葉に、結花の心は大きく揺れた。
「課長…。」
「こんなことを言うのは不公平だってわかってる。お前が高橋のことをどう思ってるかも知らない。でも、俺はお前に伝えたかった。」
結花は言葉を失い、ただ颯真を見つめた。彼の真剣な眼差しが胸に響く。
家に帰り、結花は布団にくるまりながら颯真の言葉を思い出していた。
涼介と颯真、二人とも彼女にとって大切な存在だ。しかし、それぞれが持つ魅力は全く異なる。
颯真の不器用な優しさに触れ、結花は自分の心がどちらに向いているのかを考え始めた。
第十五章:颯真との距離がさらに縮まる休日
翌日の土曜日、結花は仕事の疲れを癒すため、久しぶりにゆっくりとした朝を過ごしていた。そんな中、颯真から一本のメッセージが届いた。
「佐藤、突然ですまないが、もし時間があればこの後ランチでもどうだ?」
突然の連絡に驚きつつも、颯真の昨夜の言葉が胸に引っかかっていた結花は、彼の誘いを断る理由が見つからなかった。
「大丈夫です。どこでお会いしますか?」
そう返すと、すぐに颯真から返信が来た。
「近くのカフェでいいか?場所を送る。」
颯真とのランチ
待ち合わせのカフェで、颯真は既に席についていた。普段のスーツ姿とは違い、カジュアルなシャツにジャケットという姿がどこか新鮮で、結花は少しドキリとした。
「来てくれてありがとう。」颯真が微笑む。
「いえ、こちらこそ…どうしたんですか?」
二人はカフェの静かな席でランチを取りながら話し始めた。話題は自然と昨日のプロジェクトの話や今後の仕事の方向性に向かったが、颯真は少しずつプライベートな話題を振るようになった。
「佐藤、お前は普段休みの日って何をしているんだ?」
「え…私は、家でゴロゴロしたり、友達と会ったり、ですね。」
「そうか。意外と普通だな。」颯真が珍しく冗談を言い、二人は笑った。
和やかな時間が流れる中、颯真は少し真剣な顔に戻り、言葉を続けた。
「昨日の話だけど、やっぱりあの場で言うべきだったのか、正直迷ったんだ。」
結花は緊張感が走るのを感じながら彼を見つめた。
「でも、お前のことを想う気持ちを隠すのは、俺らしくないと思った。もし俺の言葉でお前を困らせていたら、すまない。」
颯真の誠実な言葉に、結花は静かに首を振った。
「困るなんてこと、ないです。ただ…急なことで、自分の気持ちをまだ整理できていないだけで。」
そう言うと、颯真は少しだけ笑い、「そうか。少し安心した。」とだけ答えた。
颯真の本音と過去
会話が進む中で、颯真は自分の過去について少しずつ語り始めた。
「俺は昔から、感情を表に出すのが苦手だった。部下に対しても、どこか一線を引いてしまうことが多くてな。」
「そんなふうには見えませんでしたけど…。」
「そう見えるようにしてるだけだ。だけど、佐藤、お前と接していると、不思議と自然体でいられるんだ。」
颯真の静かな声が胸に響く。彼の言葉には隠し事がなく、結花はその誠実さに心を動かされた。
「もし迷惑じゃなければ、もう少しだけこうして話をする時間をくれないか?」
結花は少し驚いたが、すぐに微笑みながら答えた。
「迷惑なんて思いません。…私も、課長ともっと話をしたいです。」
帰り道での出来事
カフェを出た後、颯真が「少し散歩しようか」と提案した。二人は並んで公園を歩きながら、静かな時間を共有した。冬の冷たい風が吹く中、結花はふと颯真の横顔を見上げた。
颯真は、結花が話す小さなことにまで耳を傾け、彼女の考えを大切にしているようだった。その姿に、結花の心はじんわりと温かくなっていく。
別れ際、颯真が静かに言った。
「今日はありがとう。これからも、少しずつでいいから、俺にお前のことを教えてほしい。」
「はい…こちらこそ、よろしくお願いします。」
そう答えた結花の頬は、冬の冷たい空気の中でほんのり赤く染まっていた。
第十六章:颯真の本格的なアプローチ
翌週の月曜日。オフィスに到着した結花は、颯真と目が合うたび、心がざわついて仕方がなかった。先週末の出来事が、まるで夢だったかのように思える。それでも、颯真の誠実な言葉は心の奥底にしっかりと刻まれている。
涼介のいつも通りの明るい声が響く中、颯真の視線がときどき自分に向けられるのを感じる結花。彼の視線が、以前よりも柔らかく温かいものに変わっているのは明らかだった。
ランチタイムでの誘い
お昼休み。いつもなら涼介が「一緒に行こう!」と声をかけてくるはずだったが、その日はなぜか颯真が先に動いた。
「佐藤、少し話せるか?」
颯真の突然の誘いに、周囲の視線が集まる。涼介は一瞬驚いたようだったが、すぐにいつもの軽い笑顔を浮かべた。
「課長に呼ばれるなんて、結花ちゃん大出世だね。」
「そんなことないって…。」慌てて返しつつも、結花は内心、涼介の反応に胸がチクリと痛む。
颯真に連れられ、会社の近くの静かなカフェに入った。二人きりでランチをするのは初めてだった。
「急に呼び出して悪かったな。落ち着いて話せるところでと思って。」
「いえ、大丈夫ですけど…。」
結花は緊張で少しぎこちなく答える。颯真の真剣な表情に、ただならぬ話題を予感していた。
颯真の決意
二人でランチを取りながら、颯真は少し言葉を探すように口を開いた。
「先週末、俺の気持ちを伝えたけど、その後ずっと考えてたんだ。」
「…課長?」
「俺は、これからもお前と一緒にいたい。だけど、仕事上の立場もあって、お前に余計な負担をかけたくないとも思っている。」
颯真の低い声が静かなカフェに響く。結花は真剣な彼の眼差しに、言葉を失った。
「でも、正直に言うと、どうしてもお前に近づきたいと思ってしまうんだ。佐藤、お前がもし俺を拒まないなら…俺はもっと自分の気持ちを伝えたい。」
結花は一瞬息を飲んだ。颯真の気持ちは、彼がどれだけ真剣に彼女を想っているかを物語っていた。
「課長、私は…。」
言葉を紡ごうとするが、気持ちが溢れそうで声にならない。颯真は結花の戸惑いを感じ取ったのか、優しく微笑んだ。
「今すぐ答えを求めてるわけじゃない。ただ、こうして時間を共有できることが嬉しいんだ。それだけは伝えておきたかった。」
颯真の優しい言葉に、結花の心はますます揺れる。
帰社後の変化
オフィスに戻ると、颯真はいつも通りの厳格な上司に戻っていた。仕事中は公私混同しない彼の姿勢に、結花はますます彼の誠実さを感じる。
だが、その日の夕方、涼介が突然声をかけてきた。
「結花ちゃん、今日早めに帰れる?久しぶりに二人でご飯でも行かない?」
涼介の軽い口調に、結花の心は再び揺れる。颯真とは違う、親しみやすく楽しい彼との時間もまた大切に感じていた。
「えっと、今日は…。」
答えを迷う結花に、涼介がいつもより真剣な表情で言った。
「俺だって、ちゃんと話したいことがあるんだ。」
その言葉に、結花はハッとした。涼介の言葉が、彼の本気の思いを感じさせたからだ。
第十七章:涼介の真剣な告白
「俺だって、ちゃんと話したいことがあるんだ。」
涼介の言葉に、結花は心が大きく揺れた。
彼の普段の軽快で楽しい態度とは違い、今の表情は真剣そのものだった。断る理由が見つからない結花は、頷くしかなかった。
「わかった。じゃあ、一緒にご飯行こう。」
涼介はいつもの笑顔を見せるが、その瞳の奥には緊張の色が滲んでいた。
夜の居酒屋で
涼介が選んだのは、会社近くの落ち着いた雰囲気の居酒屋だった。静かな個室に案内され、二人きりになると、涼介は少しだけ気まずそうに笑った。
「こうやって二人でご飯食べるの、久しぶりだよな。」
「そうだね、最近忙しかったから。」
軽く交わされる会話に、どこかぎこちなさが漂う。それでも、涼介のペースでいつものような楽しい話題が続くうちに、結花も少しずつリラックスしてきた。
だが、食事が進むにつれ、涼介の言葉が徐々に途切れがちになり、やがて真剣な目で結花を見つめた。
「結花ちゃん。」
「うん?」
「俺さ、ずっと言いたかったことがある。」
涼介の声は低く、いつもの軽い調子とは全く違う。その真剣な様子に、結花は自然と背筋を伸ばした。
「俺は、結花のことが好きだ。」
その一言に、結花は一瞬息を呑んだ。
「え…?」
「最初は同期として気楽に話せる相手だと思ってた。でも、一緒に仕事をしていくうちに、いつの間にかお前のことを特別だと思うようになってた。」
涼介の声は穏やかだが、どこか不安げだった。
「お前が最近、颯真課長と一緒にいるのを見て、正直焦った。けど、それでも自分の気持ちを伝えないまま後悔するのは嫌なんだ。」
結花は目を見開いたまま、言葉を失っていた。涼介の告白は予想外だったわけではない。それでも、彼がこんなにも真剣に気持ちを伝えてくれるとは思っていなかった。
「俺はお前を笑わせる自信があるし、どんなときでも味方でいられる自信がある。でも…お前が俺をどう思ってるのか、教えてほしい。」
涼介の切実な想いが込められた言葉に、結花の胸は大きく揺れた。
結花の揺れる心
「涼介…ありがとう。」
ようやく声を絞り出した結花は、彼の瞳をしっかりと見つめた。
「でも、私…急に答えを出せない。正直、颯真課長のこともあって、まだ自分の気持ちが整理できていないの。」
涼介の顔が少しだけ曇る。それでも、彼は頷いてみせた。
「そっか。無理に答えを求めるつもりはない。ただ、俺の気持ちは変わらないから。」
涼介の笑顔は優しく、どこか切ないものだった。
その帰り道、結花は頭の中で二人の顔が浮かび、ますます心が揺れる自分を感じていた。
第十八章:プライベートでの決定的瞬間
翌週の金曜日。仕事を終えた結花は、オフィスを出たところで颯真とばったり鉢合わせた。
「佐藤、お疲れさま。」
颯真のスーツ姿はいつも以上にキリッとして見え、彼の端正な顔立ちが夕陽に映えている。
「課長もお疲れさまです。」
軽く会釈した結花に、颯真は少しだけ迷ったように見えたが、すぐに静かな声で言った。
「もし予定がないなら、一緒に軽く食事でもどうだ?」
突然の誘いに結花は一瞬迷ったが、颯真の表情が普段より柔らかいことに気づき、自然と頷いていた。
「…はい、ぜひ。」
颯真のプライベートな一面
向かった先は、会社の近くにある隠れ家的なフレンチレストランだった。店内は落ち着いた雰囲気で、颯真がこんな場所を知っていることに少し驚いた。
「ここ、意外ですね。もっと硬派な場所を選ぶかと思ってました。」
結花が冗談めかして言うと、颯真は少しだけ微笑んだ。
「たまにはこういう場所も悪くないだろう?静かで、ゆっくり話ができる。」
颯真の微笑みを見るのは珍しく、それだけで結花の胸が少しだけ高鳴る。
料理が運ばれてくる間、颯真は仕事の話から徐々にプライベートな話題に移っていった。
「俺はずっと仕事に没頭してきた。結婚なんて考える暇もなかったし、自分には必要ないと思っていた。」
そう話す彼の横顔はどこか寂しげだった。
「でも、お前と仕事をするようになってから考えが変わった。お前みたいに一生懸命で、人を元気にする存在が、俺にも必要なんじゃないかって思うようになったんだ。」
その言葉に、結花は思わず視線を落とした。颯真の気持ちの重みを感じつつ、彼の誠実さが心に響く。
食事が終わり、颯真が結花を家まで送ろうとレストランを出た瞬間、不意に聞き慣れた声が背後から飛んできた。
「おい、結花ちゃん!」
振り返ると、そこには涼介が立っていた。彼の手にはコンビニの袋が握られており、どうやら仕事帰りの途中でばったり遭遇したようだ。
「えっ?」
思わず声を漏らす結花に、涼介は驚いた様子で颯真を見た。
「なんだ、課長と一緒にいたのかよ。」
その声色には、明らかな嫉妬が滲んでいる。
「偶然だ。君には関係ないことだ。」
颯真の低い声が場の緊張感を高める。
「関係ないわけないだろ。俺も結花ちゃんを想ってるんだから。」
涼介の真っ直ぐな言葉に、結花はドキリとした。
「こんな時間に二人きりで食事なんて、俺には我慢できない。」
涼介の言葉はまるで子供っぽい抗議のように聞こえたが、その裏には本気の感情が見え隠れしている。
「君に俺の行動を咎める権利はない。佐藤がどう思うかは彼女自身が決めることだ。」
颯真の冷静な言葉が涼介を黙らせた。だが、その場の空気は張り詰めたままだ。
結花は二人の間で視線を行き来させ、どうしていいか分からなくなった。二人とも自分を真剣に想ってくれている。それが嬉しくもあり、苦しくもある。
「もう、やめてください。」
結花は意を決して口を開いた。
「私は…まだどちらにも答えを出せません。でも、こんな風に私を困らせるのはやめてほしいんです。」
その言葉に、颯真も涼介も黙り込むしかなかった。
第十九章:仕事の中で見えた本心
翌週、プロジェクトが佳境に入り、結花のチームは取引先との大規模なプレゼンテーションを控えていた。成功すれば大きな契約につながる重要な場面であり、チーム全員が緊張感を漂わせていた。
颯真の冷静さと頼もしさ
プレゼン前日、チームメンバーの意見が割れて進行が滞る中、颯真は落ち着いた声で会議室全体を制した。
「一度落ち着こう。このままでは良い結果は出せない。」
颯真の声が響くと、自然と場の空気が引き締まった。彼は各メンバーの意見を冷静に整理し、的確な指示を出していく。その姿に、結花は改めて彼のリーダーシップに感心した。
「佐藤、お前が提案していたアイデアをもう一度聞かせてくれないか?あれが軸になると思う。」
颯真の信頼のこもった眼差しに、結花は少し緊張しながらも意見を述べた。彼はそれを的確に補足し、最終的なプランに組み込んでいく。
「さすが課長ですね。うまくまとめてくれてありがとうございます。」
結花がそう言うと、颯真は穏やかに微笑んだ。
「お前が考えたアイデアが良かったからだ。俺はそれを形にしただけだよ。」
その言葉に、結花の胸がじんわりと温かくなった。
涼介のサポートと親しみやすさ
その夜、結花はプレゼン資料の最終調整を任され、遅くまでオフィスに残っていた。集中していると、後ろから声がかかった。
「頑張ってるな、結花ちゃん。」
振り返ると、涼介がコーヒーを持って立っていた。
「涼介くん…もう帰ったと思ってました。」
「いや、結花ちゃんがまだ残ってるのに俺だけ帰るなんてできないだろ。」
彼はそう言って、結花の隣の席に腰を下ろした。
「何か手伝えることある?全部一人で抱え込むなよ。」
その親しみやすい態度に、結花は自然と心を開いていた。涼介は彼女の進めていた資料を一緒に見て、的確なアドバイスをくれる。その軽妙なやり取りに、疲れが少しだけ和らいでいく。
「涼介くん、ありがとう。本当に助かります。」
結花が微笑むと、涼介は少し照れたように笑った。
「結花ちゃんが笑ってくれるなら、それで十分だよ。」
その言葉に、結花の胸が小さく疼いた。
プレゼン本番
翌日、プレゼン本番を迎えた。颯真と涼介の二人は、それぞれの立場で結花をサポートし、プロジェクトを成功に導こうと全力を尽くしていた。
颯真は全体の進行を的確に指示し、クライアントからの質問にも冷静に対応。彼のリーダーシップがプロジェクト全体を引き締めていた。
一方で、涼介はその柔軟なコミュニケーション力で場の雰囲気を和らげ、取引先との信頼関係を築いていった。その姿は、颯真とはまた違う魅力を持っていた。
結花は二人のサポートを受けながら、自分のプレゼン部分をしっかりとやり遂げた。クライアントの反応も良く、プロジェクトは大成功を収めた。
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第二十章:過去が紡ぐ想い
プレゼンから数日後、結花はプロジェクトの資料整理をしていた。チームの努力の成果を形に残す作業は地味だが、彼女にとっては大切な時間だった。
その時、ふと書類の山に見覚えのないファイルが紛れ込んでいるのに気づいた。
颯真の意外な過去
そのファイルは颯真が手がけた過去のプロジェクトの資料だった。ページをめくると、そこには現在の颯真からは想像できないような、熱量のこもった企画書が並んでいた。
「課長って、こんなに情熱的な仕事をしてたんだ…。」
資料の最後にはプロジェクトの振り返りが書かれており、そこには彼の挫折と葛藤が赤裸々に綴られていた。
「このプロジェクトが失敗に終わったことで、自分のやり方に限界を感じた。だが、誰かを支え、導くことで、自分ももう一度前を向けると気づいた。」
その言葉に、結花は胸が締め付けられるような思いを感じた。普段冷静で完璧に見える颯真が、こんな苦しい経験を乗り越えて今の姿になったのだと知り、彼への尊敬と感謝の気持ちがさらに強まった。
涼介の家族との絆
その翌日、結花は仕事終わりに偶然涼介とエレベーターで一緒になった。
「これからどこか行くの?」
「うん、実家にちょっと顔を出すんだ。たまには両親に孝行しないとね。」
その言葉に驚いた結花は、思わず尋ねてしまった。
「涼介くんって、実家のこと大事にしてるんだね。」
「まあね。俺が今こうして自由にやれてるのは両親のおかげだから。」
その後、涼介は笑顔で自分の家族の話を語り始めた。幼い頃、父親が仕事で家を空けがちだったため、母親が一人で家族を支えていたこと。そして、そんな母親を尊敬していることを。
「俺、母さんみたいに家庭を大事にできる人と一緒になりたいって思ってるんだ。」
その言葉に、結花は思わず心を動かされた。
涼介の無邪気な明るさの裏には、しっかりとした家族観や優しさが根付いている。そのことを改めて知り、彼の魅力を再確認したのだった。
それぞれの距離感
颯真の冷静さの裏にある情熱と挫折の経験。
涼介の明るさの裏にある深い家族愛と温かさ。
二人の過去を知ることで、結花は改めて自分が二人のどちらにも強く惹かれていることを感じた。しかし、それと同時に自分の気持ちを整理する必要があると痛感する。
「どちらも素敵で、どちらも特別…。私はどうしたらいいんだろう。」
彼女の心はますます揺れ動いていく。
第二十一章:心の整理と決断の時
結花は、颯真と涼介のそれぞれの過去を知り、心の中で二人に対する気持ちがますます複雑になっていった。どちらも魅力的で、尊敬できる部分がある。でも、その魅力があまりにも違いすぎて、結花は自分の気持ちを整理することができなくなっていた。
その日、結花は帰り道でふと立ち止まった。
「私は、どちらを選ぶべきなのか…。」
答えを出さなければならないというプレッシャーに押し潰されそうになりながらも、結花は心の中でひとつの決断を下すことにした。
心の整理をするために
結花は何日かの間、二人との連絡を控え、普段の仕事に集中することにした。外から見れば、いつもと変わらない日常が続いていたが、彼女の心の中は静かに動揺していた。
「どちらがいいのか、どちらを選べば幸せになれるのか…。自分の気持ちに正直にならなければ。」
そんな日々が続いたある夜、結花はひとりのカフェでノートを開いて、今感じていることを書き出すことにした。彼女がノートに綴ったのは、颯真と涼介、それぞれへの気持ちと、自分が何を求めているのかという本音だった。
颯真に対する気持ち
「課長は、冷静で頼りにできる存在。でも、その冷静さが時々遠く感じてしまう。私が近づけない壁のように思えることもある。でも、どこかで彼が見せる優しさが、私を引きつける。彼に支えられていると感じることも多い。」
涼介に対する気持ち
「涼介くんは、いつも明るくて、私を楽しい気分にさせてくれる。でも、それだけじゃない。彼の家族や過去の話を聞いたとき、温かさの裏にある深さを感じた。涼介くんは、自分に素直で、周りに対しても優しい。でも、時々、その優しさが私には少し重く感じることもある。」
決断の瞬間
数日後、結花はようやく自分の気持ちに向き合う覚悟ができた。彼女は二人に連絡を取り、会う約束をした。
その夜、彼女はオフィスを後にする前に、深呼吸をして心を整えた。
「このままじゃ、どちらにも迷惑をかけてしまう。自分の気持ちを正直に伝える時が来たんだ。」
結花は、自分がどちらを選ぶかを決めるため、二人とそれぞれ会う準備を整えた。
第二十二章:颯真への決意
結花は颯真と会うために指定したカフェに向かった。心臓が鼓動を速め、足取りが重く感じる。あの冷静で完璧に見える颯真に、自分の気持ちをどう伝えるべきか、結花は迷いながらも、決意を固めていた。
颯真はすでにカフェに到着しており、メニューを手にして落ち着いて座っていた。彼の冷静さに少し安心し、結花は深呼吸をして席に着いた。
「課長、すみません、お忙しい中…。」
颯真は微笑みながら、手元のメニューを閉じ、結花に目を向けた。
「大丈夫だよ、結花さん。どうしたんだ?何かあったのか?」
結花は少し言葉を詰まらせたが、すぐに気を取り直し、言った。
「実は、少しお話ししたいことがあって…。自分の気持ちについて、整理したいんです。」
颯真は静かに頷いた。
「わかった。ゆっくり話そう。」
結花はしばらく沈黙を感じながらも、思い切って口を開いた。
「私、課長のことを尊敬していますし、ずっと頼りにしてきました。課長の冷静さや、どんな時でもブレない強さが、すごく魅力的だと思っていました。でも、最近、課長と一緒にいることで、私の気持ちが…少しずつ変わってきていることに気づいたんです。」
颯真は真剣に聞き入り、結花の言葉を待っていた。
「私は…課長に対して、単なる尊敬の気持ちだけでなく、もっと深い感情を抱いていることに気づいたんです。すごく恥ずかしいけれど、私は、課長に対して特別な気持ちを抱いているんだと思います。」
結花が言い終わるよりも先に、颯真は結花を引き寄せ強く抱きしめた。
「俺も君が好きだ!結婚を前提に付き合ってほしい。」
「はい!」
第二十三章:
2人が付き合いだして数週間が経った。2人の関係は、仕事の合間やプライベートな時間を共有することで、ますます深まっていった。結花は颯真の優しさや誠実さに惹かれ、心から彼との未来を想像するようになっていた。しかし、心の中で少しだけ不安が残っていた。それは、彼との関係がどのように進んでいくのか、どれほどの覚悟を持って歩んでいけばいいのかが、まだ見えないということだった。
一方で、颯真も悩んでいた。結花との時間が充実していく中で、彼は一つの大きな決断を下すことを決意した。彼女とこれからの人生を共に歩みたいと心から思うようになったが、その思いを伝えるには、今が最適だと感じていた。
ある日、結花が仕事の合間にオフィスで書類を整理していると、颯真が突然、彼女のデスクにやって来た。
「結花、少しだけ話せるかな?」
結花は驚きながらも、颯真に微笑んで答えた。
「もちろん、何かありましたか?」
颯真は少し真剣な表情で、結花を見つめた。
「今週末、時間を空けておいてくれ。詳細はまた連絡する。」
週末がやってきた。結花は颯真から言われた通り、指定されたレストランに向かう準備をしていた。彼が「大事なことを伝えたい」と言っていたその言葉が、頭の中で何度もリフレインしていた。結花は一体、何を伝えられるのだろうか。心の中で期待と緊張が入り混じり、足元がふわふわと浮いているような感覚だった。
レストランに到着した結花は、颯真がすでに席で待っているのを見つけ、胸が高鳴った。彼はいつものように落ち着いていたが、どこか少し緊張しているようにも見えた。
「お待たせしました。」
結花が席に着くと、颯真は微笑みながら言った。
「結花、今日は来てくれてありがとう。君と話したいことがあるんだ。」
その言葉に結花の心は一層高鳴り、無意識に手が震えているのを感じた。颯真は、ゆっくりと息を吐きながら話し始めた。
「俺は君と出会ってから、ずっと考えてきた。君のことをもっと知りたいと思ったし、一緒に過ごす時間がとても心地よくて…。君に対する気持ちが、ただの部下としての感情を越えて、どんどん深くなっていった。」
結花はその言葉に静かに耳を傾けながらも、颯真が何を言おうとしているのか、心の中で予感していた。
「君といることで、俺は自分を大切にすることを学んだし、君と一緒にいる未来を描くことができるようになった。」
その時、颯真は席を立ち、結花の前にひざまずいた。結花は驚きとともに、息を呑んだ。
「結花、僕と結婚してほしい。」
颯真の真剣な瞳が、結花を見つめていた。その瞬間、結花は自分の胸が激しく鼓動しているのを感じた。言葉を失いながらも、彼が自分に向ける真剣な眼差しに心が震えた。
「私は…」
結花は少し戸惑いながらも、その心の中に確かな感情が湧き上がるのを感じた。彼と一緒に歩んでいきたい、そう心から思った。
「私は…颯真さんと一緒に未来を歩んでいきたいです。」
颯真はその言葉を聞き、安堵の表情を浮かべてから、結花の手を優しく握った。
「結花…本当にありがとう。」
結花は彼の手をしっかりと握り返し、二人はお互いの目を見つめ合った。その瞬間、時間が止まったかのように感じた。二人の心がひとつになった瞬間だった。
颯真は結花に指輪を渡し、彼女の手にそっとはめた。結花はその指輪を見つめながら、これから始まる新たな人生に思いを馳せた。
エピローグ
結花と颯真は、互いに心からの思いを確認した日から、結婚準備を着実に進めていた。どれだけ忙しい日々が続いても、二人で過ごす時間が増えるにつれ、自然と心が温かくなり、結婚への期待が膨らんでいった。結花は、颯真と過ごす未来を想像するたびに胸が高鳴り、彼のそばでずっと幸せを感じることができると思うと、心から幸せを感じていた。
そして、ついに結婚式の日がやってきた。
結花は、白いウェディングドレスを身にまとい、鏡の前で自分の姿を見つめていた。ドレスはシンプルでありながら、どこか上品で美しく、結花の表情も一層輝いていた。彼女は、こんな素敵な日に、颯真と一緒に立つことができることに感謝の気持ちでいっぱいだった。
「結花、準備はできた?」
颯真が控え室に入ってきたその瞬間、結花はふっと顔を上げて彼を見つめた。颯真はスーツをきっちりと着こなし、普段のビジネスシーンでの落ち着いた姿とはまた違った、少し緊張した表情を浮かべていた。彼が目を合わせると、結花の心は温かさで満ちた。
「はい、準備はできました。」
颯真は優しく微笑み、結花の手を取った。
「今日は、君が一番美しい日だよ。」
その言葉に結花は照れながらも、心の中でほっと息をついた。颯真と過ごす未来を、これから共に歩んでいくことができる…そのことが、何よりも嬉しく感じた。
式場に向かう車の中、二人は静かに手を繋ぎながら、あっという間に過ぎる時間を感じていた。結花は、颯真とのこれからを想像しながら、微笑みを浮かべていた。今日、この日が特別な意味を持つことを、彼女は深く感じていた。
式場に到着すると、家族や友人たちがすでに集まっていた。結花は、颯真の手をしっかりと握りしめながら、心の中で誓った。これからどんなことがあっても、二人で支え合いながら歩んでいくと。
式が始まり、結花は緊張しながらも、颯真との一歩一歩を確実に歩んでいった。誓いの言葉を交わし、指輪を交換し、結婚証明書にサインをしたその瞬間、結花は心からの笑顔を浮かべた。
「結花、これからもずっと、君を守り、愛し続けることを誓うよ。」
颯真の言葉に、結花は涙をこぼさないように必死に笑顔を作りながら、彼の手を強く握った。
「私も、これからずっと課長、いや、颯真さんと一緒に歩んでいきます。」
結婚式の後、二人は一緒に過ごす新しい生活が始まった。その日から、二人の愛はますます深まり、何よりもお互いを大切にし合う毎日が続いていった。
ーFinー
最後までご覧いただきまして、ありがとうございました!
甘々でキュンキュンする三角関係の中で、それぞれのキャラクターが不器用ながらも自分の気持ちと向き合い成長していく姿を描くラブコメになればと思い、描いてみました。
番外編も良かったら、読んでみてください!
番外編:幸せな家庭生活
結婚から数年が経ち、結花と颯真の家庭は温かい愛に包まれていた。二人は、互いに支え合いながら、仕事と家庭を両立させていた。結花はパートタイムの仕事を続けながらも、家での時間を大切にし、颯真も家に帰れば、すぐに結花と過ごす時間を最優先にしていた。どんなに忙しくても、二人の間には笑顔と愛が溢れていた。
そして、ついに待望の第一子が生まれた。元気な男の子で、二人はその小さな手を握りしめ、幸せに満ちた顔をしていた。
「颯真、私たち、親になったんだね。」
結花は涙をこらえながら、赤ちゃんを抱きしめて言った。颯真も優しく微笑みながら、結花の肩をポンと叩いた。
「うん、二人でちゃんと育てていこうね。」
赤ちゃんは、颯真に似て目が大きく、結花に似たまるい顔をしていた。その顔を見るたびに、二人は愛おしさで胸がいっぱいになった。
日々の生活は忙しく、夜泣きやオムツ替え、授乳で寝不足になることもあったが、それでも二人はお互いに助け合いながら乗り越えていった。結花は、毎日寝不足で疲れている颯真に「お疲れ様」と声をかけ、颯真は「ありがとう、結花」と笑顔で返す。そんな何気ない瞬間が、二人にとってはかけがえのない宝物だった。
週末には、颯真が赤ちゃんを抱っこして散歩に出かけ、結花は二人の後ろ姿を見守りながら、心から幸せを感じていた。
「今日はどこに行こうか?」
颯真が尋ねると、結花は考え込みながらも、微笑んだ。
「公園に行きたいな。赤ちゃんも喜ぶかもしれないし。」
颯真は頷きながら、「じゃあ、行こうか」と手を差し伸べた。二人でベビーカーを押しながら、公園の緑豊かな景色の中を歩いた。結花は、颯真と赤ちゃんの幸せそうな姿を見て、心からこの瞬間が大切だと思った。
「颯真、私、幸せだよ。」
結花は突然、颯真に話しかけた。その言葉に颯真は振り返り、優しく微笑んだ。
「僕もだよ、結花。」
そして、颯真は赤ちゃんを見つめながら言った。
「この子が大きくなったら、たくさん一緒に遊ぼうな。」
結花は頷きながら、赤ちゃんの小さな手をそっと握った。未来のことを考えると、二人の心はもっと強く結ばれ、これからの家庭生活に対する希望と喜びが溢れた。
夜、寝かしつけた後、二人はソファに座り、しばらく静かな時間を過ごした。颯真が結花に微笑みかけながら言った。
「結花、僕たち、これからもずっと、こうやって幸せな時間を重ねていこうね。」
結花は頷きながら、颯真の手を握り返した。
「はい、ずっと一緒に。」
その夜、二人は手を取り合い、静かに眠りについた。赤ちゃんの寝息が聞こえる中で、幸せな家庭の温かさが広がっていた。
ーFin-
次回作は、2人の結婚式に参加していた颯真の大学時代の後輩と結花の親友の物語を描きたいと思います!
お楽しみ!
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