【胸キュン♡プチ恋愛小説】寝取られから始まる御曹司の溺愛宣言!(完)
2025/01/01
ジャンル:寝取られ、御曹司、溺愛、独占欲、俺様、同居生活
約41分(約20,600文字)
あらすじ:
主人公・愛菜は、順調なキャリアを築きながらも、同棲中の彼氏・和也の浮気現場を目撃し、人生の歯車が狂い始める。深く傷ついた愛菜は、偶然立ち寄ったバー「Bar Casa」で出会った西園寺グループの御曹司・大翔に心を救われる。
大翔は一夜にして愛菜に惹かれ、彼女を守ることを決意。和也は復縁を迫るが・・・。
独占欲と溺愛が交錯する大人のラブストーリー。
主な登場人物
加賀美 愛菜(かがみ まな)
28歳/営業部第一課主任
仕事で常にトップの成績を収めるキャリアウーマン。
可愛らしい見た目とは裏腹にサバサバした性格で同性からの支持も厚い。
恋愛においては無自覚な高嶺の花だが、過去の交際では「自分がいなくても生きていける」と振られることが多い。
今まで本気で人を好きになったことがない。
西園寺 大翔(さいおんじ ひろと)
31歳/西園寺グループの御曹司・専務
大財閥の次期社長。冷徹で怖い印象だが、内面は情が深く一途。
愛菜に対しては特別に優しく、全力で溺愛する。
表には出さないが、独占欲が強い。
尾崎 孝也(おざき たかや)
31歳/Bar Casaオーナー
大翔の親友で、爽やかな雰囲気のプレイボーイ。
割り切った大人の関係を楽しむ主義。愛菜に出会ったことで自分の価値観が揺らぐ。
松永 和也(まつなが かずや)
27歳/愛菜の元彼
愛菜と同棲中だったが浮気が発覚し破局。
自分の過ちに気づき復縁を迫るが、愛菜の心は既に離れている。
目次
第一章 裏切りの夜
営業先での打ち合わせが予想以上にスムーズに進み、予定より半日早く帰れることになった愛菜は、軽い足取りで最寄り駅から自宅へと向かっていた。冬の冷たい風に肩をすくめながらも、週末の予定を考えると心が弾む。
彼氏の和也と付き合い始めて2年。同棲してからは特に大きな喧嘩もなく、穏やかな日々が続いていた。最近は仕事が忙しく、和也とゆっくり話す時間も少なかったが、それでも関係は順調だと思っていた。
「今日は和也と少し特別な夕食でもしようかな」
そう思いながら自宅のマンションに到着し、エントランスの鍵を開ける。
しかし、部屋のドアを開けた瞬間、胸の奥に冷たい違和感が走った。
玄関先に見慣れないハイヒールが置かれている。愛菜のものではない。サイズも明らかに違う、派手なデザインの靴だった。
「……え?」
一瞬、思考が停止する。心臓が鼓動を早め、嫌な予感が背筋を這い上がる。深呼吸をして気を落ち着けようとしたが、耳を澄ますと微かに聞こえる女性の声がその努力を無駄にした。
愛菜は慎重に廊下を進む。足音を殺し、リビングを通り過ぎて寝室の前で立ち止まる。中から聞こえるのは、間違いなく女性の喘ぎ声だった。
「まさか……」
震える手でドアノブに触れ、そっと押し開ける。
そして目に飛び込んできた光景に、言葉を失った。
ベッドの上で絡み合う男女。見慣れた和也の背中、そして見知らぬ女性の妖艶な笑み。二人の肌が触れ合い、彼の名前を呼ぶ声が部屋に響く。
和也がふと視線を感じて振り返ると、そこには蒼白な表情の愛菜が立っていた。
「ま、愛菜!? なんで……早く帰ってきたんだ?」
慌てて身体を起こし、言い訳を並べる和也。しかし、愛菜はその声に耳を貸さず、ただ冷たい目で彼を見つめるだけだった。
「言い訳なんて聞きたくない。」
そう呟くと、愛菜は玄関先に置きっぱなしにしていたキャリーバッグを手に取り、そのまま部屋を出た。和也の追いかける声が背後から聞こえたが、一切振り返ることはなかった。
街に出てきた愛菜は、途方に暮れながらホテルを探すために電車に乗り込む。目的の駅で降り、しばらく歩いていると、目の前に落ち着いた雰囲気のBarが目に留まった。
「ホテルを探す前に、少し飲んで気持ちを落ち着けよう……」
ふらりとその店に足を踏み入れると、木目調のカウンターと温かみのある照明が目に入った。客はまばらで、落ち着いた雰囲気が心地よい。
カウンターの向こうには、黒いシャツを着こなした一人の男性が立っていた。冷たい印象の顔立ちだが、その整った容姿が思わず目を引く。
「いらっしゃいませ。」
その低く落ち着いた声が、愛菜の乱れた心を少しだけ静めた。
「……ウイスキーをください。ロックで。」
こうして、愛菜と西園寺大翔の出会いの夜が始まった。
第二章 Barでの出会い
カウンター席に腰を下ろした愛菜は、静かにウイスキーグラスを傾けた。口に広がる苦みと、喉を伝う熱さが、胸の中のざわつきをわずかに和らげる。だが、先ほど目の当たりにした光景が頭を離れず、無意識にため息が漏れた。
「お客様、何か嫌なことでも?」
突然声をかけられ、顔を上げる。カウンター越しに立っていたのは、バーテンダーの男性だ。その鋭い目つきと冷静な声に、一瞬たじろぐ。
「あ、いえ……別に。」
そう言ったものの、愛菜はすぐに視線をグラスに戻した。だが、お酒が進むにつれ、抑えていた感情が少しずつ溢れてきた。
「……浮気現場を見ちゃったんです。」
愛菜がぽつりと漏らした言葉に、男性の手が止まる。振り向いた彼の表情には、わずかに興味の色が浮かんでいた。
「それは災難でしたね。」
彼はそう言って、空になりかけた愛菜のグラスに新しいウイスキーを注いだ。その動きはどこか丁寧で、愛菜の心を和らげるようだった。
「2年も付き合ってたんですよ。同棲までしてて……なのに、帰ったら他の女とベッドで……。信じられないですよね?」
お酒が回り始めた愛菜は、初対面の彼に愚痴をこぼし始めていた。涙をこらえながら笑顔を作ろうとする愛菜の姿に、彼の瞳が一瞬鋭く光った。
「世の中にはそんな男もいます。けど、そんな奴のために涙を流すのはもったいない。」
その一言に、愛菜は思わず顔を上げた。彼の冷たい目がどこか温かさを宿し、真剣に愛菜を見つめている。
「そう……ですよね。」
弱々しく微笑む愛菜に、彼はもう一杯グラスを差し出した。
「俺の名前は大翔。この店のオーナーとは友人で、よく来ている常連だ。」
「……愛菜です。」
「愛菜さん、今日くらいはとことん飲んで忘れるのも悪くない。」
その言葉に、愛菜は思わず笑みを浮かべた。それまでの緊張が少しずつほぐれ、気づけば会話も弾み始めていた。
夜も更け、愛菜が飲み続けるペースの速さに、大翔は内心で眉をひそめていた。
「このままじゃ潰れるな……」
酔いが回り、フラフラになった愛菜を見かねた大翔は、オーナーの孝也に声をかけた。
「悪いが、こっちで面倒見る。」
「本気か? いい女だが、潰れてるぞ。」
「放っておけないだけだ。」
大翔は愛菜を支えながら店を後にした。タクシーに乗せ、自宅のタワーマンションへ向かう。
目が覚めた愛菜は、見覚えのない部屋の天井を見上げた。清潔感のある広い部屋。そして隣にいる男性の気配。
「えっ……?」
自分が裸であることに気づき、血の気が引いた。その瞬間、隣の男性が目を覚まし、優しい声で話しかけてきた。
「おはよう。昨日はすごい飲んでたな。」
振り返ると、昨夜のバーで会った大翔だった。上半身裸の彼の姿に、愛菜は真っ赤になり、布団を掴んで身を隠す。
「何で私がここに!? それに……何で服を着てないの!?」
「落ち着け。何もしてない。」
大翔は苦笑いを浮かべながら説明を始めた。愛菜が酔い潰れて吐いてしまったため、汚れた服を脱がせただけだという。そして、彼自身も汚れたシャツを脱いだだけだと付け加えた。
「俺は女には困っていない。それに、意識のない相手に手を出すほど腐ってない。」
そう言った彼の表情は真剣だったが、次の一言で愛菜をさらに動揺させた。
「でも、今からするのならそれも悪くないな。」
「な、何言ってるんですか!?」
大翔の冗談混じりの言葉に、愛菜はますます真っ赤になる。その反応に、彼は軽く笑って「冗談だよ」と言いながら立ち上がった。
「とりあえず、朝食でも食べるか。」
大翔の用意した朝食を食べながら、愛菜はなぜか心が穏やかになっている自分に気づいた。昨夜の浮気現場のショックが薄れつつあることに戸惑いながらも、目の前の大翔の優しい笑顔に、どこか救われている気がした。
だが、その平穏も長くは続かなかった。愛菜の携帯が鳴り響き、画面には和也の名前が表示されていた――。
第三章 過去との決別と新たな提案
愛菜の目が和也からの着信を示すスマートフォンに釘付けになる。
着信音はしつこく響き続け、その音が愛菜の胸を締め付けるようだった。
「出たらどうだ?」
大翔が低い声で促す。愛菜は迷いながらも、震える手で電話に出た。
「……もしもし。」
『愛菜、どこにいるんだ? 話を聞いてくれ!』
和也の必死な声が耳元に響く。だが、その声にかつて感じた温もりはもうなかった。むしろ、冷たく響く言葉が胸をえぐるだけだった。
「話すことなんてない。私たち、もう終わりだから。」
『そんなこと言うなよ! 一緒に住んでたじゃないか! 今さらそんな簡単に終わらせられるわけ――』
その言葉を聞いた瞬間、電話越しでも和也の自己中心的な態度が目に浮かび、愛菜は唇を噛んだ。そして意を決して言い放つ。
「一緒に住んでたからこそ、もう無理なの。私を裏切ったこと、絶対に許せない。」
『……待て、俺だって……』
「さよなら、和也。」
愛菜は通話を切り、深く息を吐いた。肩の力が抜け、ずっと重荷を背負っていた自分にようやく気づく。
その時、目の前に座っていた大翔が静かに言葉をかけてきた。
「スパッと切ったな。」
「もう後戻りするつもりはありませんから。」
そう言いつつも、愛菜の声は少し震えていた。そんな彼女を見て、大翔が軽く笑いながらコーヒーを差し出す。
「住む場所はどうするんだ?」
その言葉に愛菜はハッとする。そうだ、自分には帰る家がもうないのだ。考えがまとまらない中、大翔がさらりと言った。
「しばらく俺の家にいろよ。部屋は余ってるから。」
「えっ、でもそんな――」
「変な意味じゃない。俺のスキャンダルになるようなことはしないさ。昨夜は、名前しか伝えてなかったな。俺は西園寺大翔。」
大翔はそう言いながら、自分の名刺を差し出した。
「・・・専務」
愛菜は名刺に書かれている大翔の役職を思わず口ずさむ。大翔からのその提案に困惑しつつも、大企業の専務が下手なことをすれば、大問題になる。大翔がスキャンダルになるようなことをしないということはそういうことだろうと納得し、頼れる人がいない現状を思い出し、ゆっくりとうなずいた。
「……ありがとうございます。でも、本当にご迷惑をかけないようにします。」
「迷惑なんて思わない。むしろ安心だ。」
その一言に、愛菜の胸が不思議と温かくなる。
新しい生活の始まり
その日から、愛菜は大翔のタワーマンションでの新しい生活を始めた。彼の住む最上階の広々とした4LDKは、これまでの生活とはまるで別世界だった。
初日は引っ越しの荷物整理と、新しい環境に慣れることで終わった。大翔は愛菜に対して特に干渉せず、必要以上に気を遣わないように配慮している様子だった。それがかえって愛菜を居心地よくさせた。
だが、時折彼の視線を感じるたびに、胸が妙にざわつくのだった。
夜、リビングのソファでコーヒーを飲んでいると、大翔が隣に座り、ふと口を開いた。
「何かあればすぐ言えよ。俺は君の味方だから。」
その言葉に、愛菜は心が揺れた。こんなに自分を気にかけてくれる人がいるのだと気づき、今までの恋愛がいかに自分本位な相手ばかりだったかを痛感する。
「本当にありがとうございます。こんな状況で頼ってしまって……」
「気にするな。むしろ、君がここにいてくれるのが俺には嬉しい。」
優しく微笑む大翔の表情に、愛菜は不覚にもドキリとした。だが、すぐにその感情を打ち消し、笑みを返す。
こうして、大翔との奇妙な同居生活が始まったのだった。
第四章 近づく心と大翔の独占欲
愛菜が大翔の家に住み始めて数日が過ぎた。
彼の広々としたタワーマンションでの生活は、思ったよりも快適だった。
仕事から帰ると、キッチンから料理の香りが漂ってくることが多い。
「おかえり。今日の晩飯はカレーだ。」
キッチンに立つ大翔は、専務とは思えないほど自然体で、親しみやすい。
「西園寺さんって、料理もできるんですね。」
「一人暮らしが長いと、嫌でも覚えるさ。愛菜は料理しないのか?」
「しますけど……こんなに手際よくはないですよ。」
照れくさそうに答える愛菜に、大翔は楽しげに笑う。
食事中、大翔は愛菜に仕事やプライベートの話を自然に引き出してくる。そのたびに、愛菜は不思議なほど心が軽くなるのを感じた。彼の柔らかな一面に触れるたび、胸が少しずつ温かくなる。
ある夜、愛菜が仕事の書類をリビングで整理していると、彼女のスマートフォンが鳴った。
画面には「松永和也」の名前が表示されている。
「まだ電話してくるのか。」
大翔が低い声で呟く。愛菜は躊躇したものの、電話に出ることはなかった。
「……無視してますけど、しつこいですね。」
「奴は自分のしたことを反省する気がないんだろうな。」
大翔の目が鋭く光る。その視線に気づき、愛菜は驚いた。
「西園寺さん?」
「……いや、何でもない。」
彼はわざとらしく視線を逸らし、グラスに口をつけた。しかしその瞬間、彼の冷静さの裏に潜む何かを感じた愛菜は、妙な不安と安心感が入り混じる感情に包まれる。
大翔の独占欲
数日後、愛菜は同僚から飲み会に誘われた。部署の同僚たちとの親睦を深める場であり、愛菜も参加することにした。
帰宅が遅くなり、マンションに戻ると、大翔がリビングのソファに座っていた。テレビはつけっぱなしだが、彼の目は画面を見ていない。
「ただいま戻りました。遅くなってすみません。」
愛菜が軽く頭を下げると、大翔は静かに立ち上がり、彼女に近づく。
「どこで何してた?」
「え、同僚と飲み会ですけど……?」
彼の声が低く、いつもより冷たい。驚いた愛菜は、大翔の目を見つめた。
「男もいたのか。」
「えっと……それは、はい。でも――」
愛菜が何かを言いかけた瞬間、大翔は彼女の肩を掴んだ。その力は強すぎず、しかし逃れられない。
「男がいる飲み会なんて、次から行くな。」
「えっ……?」
彼の言葉に愛菜は戸惑う。いつもの穏やかな大翔とは違う態度に、胸がざわついた。
「君が誰と会い、誰と話しているか気になる。いや、正直に言えば……嫉妬している。」
その言葉に、愛菜の心臓が跳ね上がる。驚きとともに、どこか嬉しい気持ちが込み上げてくるのを抑えられない。
「……でも、それっておかしいですよ。私は西園寺さんの――」
「関係ない。お前は俺のものだ。」
大翔の瞳には、冷たさと熱が同時に宿っている。それが愛菜を圧倒し、反論を飲み込ませる。
「……どうして、そんなこと……?」
「君が他の男に目を向けるのが、ただ嫌なんだ。それだけだ。」
その言葉の強さに、愛菜は何も言えなくなる。大翔は彼女の肩から手を離し、少し離れてため息をついた。
「……悪かった。強引だったな。でも、俺は本気だ。」
そう言い残し、大翔は自室へと向かう。その背中を見つめる愛菜の胸は、不安とときめきでいっぱいだった。
第五章 隠された真実と溶ける距離
翌朝、大翔の態度はいつも通りだった。
まるで昨夜の出来事はなかったかのように穏やかに接してくる。
「おはよう。朝ごはんはパンとスクランブルエッグでいいか?」
「……あ、はい。ありがとうございます。」
愛菜は少しぎこちない笑顔を返したが、大翔は特に気にした様子もなく手際よく料理を進める。
食事を終えた後、愛菜は仕事へ向かう準備をしていたが、ふとリビングの棚に目が留まった。
そこには、立派な額縁に収められた家族写真が飾られていた。
大翔らしき少年が、両親らしき人物と並んで写っている。彼の笑顔は今の冷静な顔つきとは異なり、無邪気で明るかった。
「それ、気になるのか?」
声に振り返ると、大翔がコーヒーカップを手に立っていた。
「あ……すみません、勝手に見ちゃって。」
「別にいい。ただ、懐かしいなと思っただけだ。」
大翔は写真を手に取り、少しの間見つめた。
「俺は昔、家族の中で自由に生きているつもりだった。でも、いつの間にか“西園寺”という名の責任に縛られるようになった。」
彼の言葉は淡々としていたが、その奥には抑えきれない感情がにじんでいるように感じられた。
「専務として働くのは、家族の期待に応えるため。でも……そういう生き方をしていると、自分が何を求めているのか、時々分からなくなる。」
その言葉に、愛菜の胸が締め付けられるようだった。
冷徹で強引に見える彼にも、こんな一面があるのだと知り、少しずつ心が近づいていくのを感じる。
二人きりの休日
それから数日後、大翔が珍しく休みを取った。
「今日は予定がないなら、どこか出かけるか?」
彼の提案に、愛菜は驚きつつも頷いた。
「じゃあ、ドライブでもどうだ?少し遠くまで行ってみたい。」
彼が運転する車は高級車で、車内も洗練された空間だった。愛菜は少し緊張しつつも、窓から見える景色に癒されていた。
「目的地って決めてるんですか?」
「いや、特には。こういうのもたまにはいいだろう?」
彼の言葉に、愛菜は小さく笑った。いつもはしっかり計画を立てるタイプだと思っていた大翔が、こんな風にのんびりした時間を過ごすのは意外だった。
車は海辺の見える場所で停まった。人気の少ない静かな場所で、二人で歩きながら波音を聞く。
「こういう場所、好きなんですか?」
「まあな。ここに来ると、余計なことを考えずに済むから。」
波打ち際を歩く二人。ふと、大翔が立ち止まり、愛菜の方を見つめた。
「愛菜、君がここに来てくれてから、俺は変わったと思う。」
「え……?」
「これまで、誰かと過ごす時間なんてどうでもいいと思ってた。でも、君といると……不思議と安心できる。」
彼の言葉に、愛菜の胸は大きく高鳴る。
「俺は多分、愛菜、君にもっと近づきたいと思ってる。」
それは告白のようで、そうではないような曖昧な言葉だったが、愛菜には十分すぎるほど響いた。
「私も……」
愛菜が言葉を紡ごうとした瞬間、大翔がそっと彼女の頬に触れる。そして、優しく口づけを落とした。
第六章 和也の策略
愛菜と大翔の距離が縮まっていく中、突如として過去が二人の前に立ちはだかることとなる。
ある夜、愛菜が仕事帰りに寄ったコンビニの前で、見慣れた顔に声をかけられた。
「よお、久しぶりだな。」
振り返ると、そこには和也が立っていた。爽やかな笑顔は相変わらずだが、どこか得体の知れない雰囲気を纏っている。
「……和也?」
「会えて嬉しいよ。まさかこんなところで再会するなんてな。」
愛菜は一瞬、混乱した。彼の顔を見た途端、浮気現場の光景が脳裏に蘇り、胸がざわつく。
「何の用ですか?」
「そんな冷たいこと言うなよ。謝りたかったんだ、あの時のことを。」
和也の表情はどこか優しげだった。だが、その瞳には薄暗い欲望が宿っているように感じられる。
「もう終わったことですから。私、急いでいるので。」
そう言ってその場を立ち去ろうとする愛菜の腕を、和也が掴んだ。
「なあ、愛菜。俺たちやり直さないか?」
「……は?」
突然の申し出に、愛菜は思わず声を上げた。
「お前が出て行ってから、俺は本当に後悔してる。浮気なんて二度としない。もう一度だけチャンスをくれないか?」
和也の真剣な声色に、一瞬愛菜の心が揺れた。しかし、その場面を冷静に思い返すと、彼が言葉だけで愛菜を引き留めようとしているのが分かる。
「無理です。私にはもう関係ありません。」
毅然とした態度で答える愛菜。だが、和也は笑みを浮かべたまま、愛菜の顔をじっと見つめる。
「そうか。なら、それでもいい。」
その言葉の裏に何か含みがあるように感じながらも、愛菜はその場を去った。
和也の接触と大翔の決意
その夜、愛菜が大翔の家に戻ると、彼が珍しくリビングで待っていた。
手にはグラスを持ち、珍しく疲れた様子だった。
「おかえり。」
「ただいま。」
愛菜がコートを脱ぎながら、大翔の視線を感じる。
そのまま何も言わず、彼はグラスを置いて近づいてきた。
「お前、今日元カレに会ったか?」
その問いに、愛菜は驚いた顔を見せた。
「どうしてそれを……?」
「あいつ、Casaまで俺に会いに来た。お前の話をしに。」
大翔の言葉に、愛菜の胸がざわついた。
「愛菜、奴はお前を取り戻そうとしてる。だが、俺がいる以上、絶対にさせない。」
彼の言葉は低く、どこか危うい色を帯びていた。その目には強い独占欲が宿っており、愛菜を守ろうという強い意志が感じられる。
「……私は大丈夫です。彼とは終わったことですから。」
愛菜が静かに答えると、大翔は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに満足げに微笑んだ。
「そうか。でも、何かあれば俺に言え。」
その言葉に、愛菜は小さく頷いた。
嵐の予感
しかし、翌日から和也の行動はエスカレートしていった。
彼は職場にまで現れ、愛菜に再び接触を図るようになる。
「愛菜、せめて話だけでも聞いてくれよ。」
職場の同僚たちの視線を感じながら、愛菜は彼を無視しようとするが、和也はしつこく追いかけてきた。
「俺、本気なんだ。やり直したいんだよ。」
そのしつこさに、愛菜は堪忍袋の緒が切れたように声を上げた。
「やめてください!私たちはもう終わったんです!」
その瞬間、オフィスの空気が凍りつく。
和也は一瞬戸惑ったが、ニヤリと笑った。
「そうか。なら、どうしても諦めるしかないな。」
そう言い残して去っていった孝也。その背中にはどこか企みを感じさせるものがあった。
第七章 揺れる心と暗躍
和也の執拗な接触が続く中、愛菜は自分の心の平静を保つのに苦労していた。会社でも自宅でも気を張り詰めた日々が続き、そんな愛菜を見かねた大翔が提案をする。
「週末、少し休みを取らないか?どこか遠出しよう。」
愛菜は一瞬戸惑ったが、彼の真剣な表情に頷いた。
「ありがとうございます。でも……私、迷惑じゃないですか?」
「お前が迷惑だと思ったことなんて、一度もない。」
彼の言葉に愛菜の胸が温かくなり、久しぶりに安らぎを感じた。
和也の計画
その頃、和也は自分の欲望を満たすために動き始めていた。
Bar Casaで和也はオーナーの孝也に話しかけた。
「なあ、例の女のことだけど……情報を教えてくれよ。」
孝也は一瞬、困った顔を見せたが、親しい間柄である和也の頼みを断るわけにもいかない。
「愛菜のことか?でも、大翔があいつに本気なのは分かるだろ?」
「だからだよ。俺は愛菜を取り戻す。あいつに渡す気はない。」
和也の瞳に宿る執念を見て、孝也はため息をついた。
「お前、無茶するなよ。下手に動けば、大翔に潰されるぞ。」
「それでもいいさ。俺は一度手放したモノを取り戻す主義なんだ。」
和也はそれ以上何も言わず、グラスの中身を一気に飲み干した。
週末の逃避行
大翔が用意したのは、都会から離れた静かな温泉旅館だった。
二人きりの時間を過ごしながら、愛菜は次第に大翔の優しさと情熱に惹かれていった。
「大翔さん、本当に私なんかにここまでしてくれる理由って……何なんですか?」
愛菜の問いに、大翔は静かに答えた。
「お前が初めてだ。俺がこんなにも誰かを守りたいと思ったのは。」
その言葉に、愛菜の頬が赤く染まる。
「でも、私はまだ……」
「いいんだ、無理に答えを出さなくて。俺はお前のそばにいられるだけで十分だ。」
大翔の深い想いに、愛菜は胸が締め付けられるようだった。
暗い影の訪問
旅館から帰ってきた翌日、愛菜のマンションの前に孝也が立っていた。
「愛菜。」
その声に驚き、足を止める愛菜。
「どうしてここに……?」
「話がしたいんだ。お前の気持ちが変わるまで待つつもりはない。」
彼の声には苛立ちが混ざり、愛菜は身構えた。
「もう終わったことだと言ったはずです。」
「そう言うなよ。俺は本気なんだ。」
その場で激しく詰め寄る和也に、愛菜は強い拒絶を示したが、彼は引き下がらなかった。
「何なら、今度は会社に行くか?お前の周りの人間にも、俺たちがどんな関係だったのか教えてやる。こんな動画を観せるなんてのはどうだ?」
その脅しに愛菜の体が硬直した。
「やめてください……!」
「なら、俺とやり直せ。それが条件だ。」
その瞬間、大翔の車がマンション前に止まり、大翔が降りてきた。
「何をしている?」
低く響く声に和也が振り返ると、そこには冷徹な表情を浮かべた大翔が立っていた。
「またお前か……。」
「愛菜に近づくな。次に何かすれば、黙っていない。」
大翔の鋭い眼差しに、和也は一瞬たじろいだが、すぐに薄笑いを浮かべた。
「そんなに守りたいのか?なら、見せてやるよ。俺の方があいつをよく知ってるってことを。」
孝也は去り際に、不敵な笑みを残して立ち去った。
愛菜を守るために
その夜、大翔は愛菜を守るための行動に出る決意を固めた。
「和也を黙らせるには、徹底的に叩くしかない。」
彼の目には強い覚悟が宿っていた。愛菜を守るためなら、どんな手段も惜しまない。
次の朝、大翔は愛菜にこう告げた。
「もう一度聞く。お前が本当に望むのは何だ?」
その問いに、愛菜の答えはまだ揺れていた。
第八章 揺れる絆
和也の脅迫まがいの行動が引き金となり、愛菜の心は再び不安定になっていた。彼女の頭の中は、過去の裏切りと現在の状況で渦巻いている。
だが、そんな愛菜の心を冷静に受け止める大翔がそばにいた。
「無理するな。俺が全部解決する。」
彼の静かな声に、愛菜は少しだけ救われる思いがした。
大翔の対策
翌日、大翔は早速孝也を牽制するための行動に移った。
彼はまず弁護士に連絡を取り、愛菜を守るための法的措置を準備した。さらに、西園寺グループの影響力を使い、和也が働く会社や関係者に接触することで、彼が愛菜にこれ以上近づけないよう圧力をかけた。
「俺の世界で生きている以上、逃げ場はない。」
冷徹な大翔の表情に、弁護士も頷いた。
一方で、彼は愛菜にはそれを一切伝えなかった。彼女をさらに追い詰めたくなかったからだ。
愛菜の決断
愛菜は、自分の心を整理するために一人で考える時間を持とうとした。
だが、和也の言葉が頭から離れない。
「本当に私のことを愛していたの?それとも……ただ所有物として見ていただけ?」
彼女は、自分が過去の関係の中で何を見失っていたのか、改めて問い直していた。
その夜、愛菜は大翔に話しかけた。
「大翔さん、私……少しだけ一人になりたいです。」
彼女の言葉に、大翔は少し驚いた様子だったが、すぐに微笑んだ。
「分かった。でも、一つだけ覚えておけ。何があっても俺はお前の味方だ。」
その言葉に愛菜は涙がこぼれそうになった。
和也の暴走
和也は、大翔の圧力を感じながらも諦めることができなかった。彼はついに、自分の持つ愛菜との過去の写真や動画を利用して、大翔に直接挑発することを決意する。
「これを世間に出されたくなければ、手を引け。」
彼は自信満々にそう言い放ったが、大翔は微動だにしなかった。
「それがどうした。」
「……は?」
「お前のやり方がどれほどくだらないか、教えてやる。」
大翔はすぐに和也の計画を逆手に取り、彼がこれ以上動けなくなるように追い詰めていった。
真実の気持ち
愛菜は、一人の時間の中でようやく自分の気持ちと向き合うことができた。彼女が本当に求めていたのは、安心感でもなく、執着でもない。
「大翔さんは私を守ってくれる。でも、それ以上に……彼の隣で私も強くなりたい。」
その答えにたどり着いたとき、彼女は再び大翔のもとに足を運んだ。
大翔のオフィスに入ると、彼は電話越しに冷静に指示を出していた。
「ああ、その件は俺に任せておけ。」
その声を聞きながら、愛菜の心は不思議なほど落ち着いていた。
「大翔さん。」
彼の目が彼女に向けられる。
「どうした?」
「私……決めました。これからは、あなたの隣に立ってもいいですか?」
その言葉に、大翔は一瞬目を見開いたが、すぐに笑みを浮かべた。
「やっと分かったか。」
彼はそっと彼女の手を取り、優しく抱き寄せた。
第九章 愛菜の選択
和也との決着がついたその夜、愛菜は一人で大翔の部屋に戻った。緊張していたはずの彼女の心は、不思議と軽くなっていた。
部屋の扉を開けると、大翔がソファで新聞を読んでいた。彼の視線が愛菜に向くと、安心したように微笑む。
「おかえり、愛菜。」
その一言に、彼女の胸がじんと熱くなる。
「ただいま。」
愛菜は深呼吸しながら、大翔の隣に腰を下ろした。
「全部終わった?」
「はい、話してきました。もう、彼とは完全に終わりです。」
愛菜の顔には、どこか清々しい表情が浮かんでいる。それを見た大翔は、彼女の肩をそっと抱き寄せた。
「よく頑張ったな。」
その優しい言葉に、愛菜はついに涙を堪えきれなくなり、大翔の胸に顔を埋めた。
新たな始まり
翌朝、大翔は愛菜のために簡単な朝食を用意していた。
テーブルに並べられた卵料理やサラダを見て、愛菜は思わず笑ってしまう。
「専務が朝食まで作るなんて、ちょっと意外です。」
「たまにはこういうのも悪くないだろ?」
大翔のさりげない言葉に、愛菜は改めて彼の優しさを実感した。
食事をしながら、二人はこれからのことについて話し合った。
「愛菜、今後はどうするつもりだ?」
「実は……もう少し自分の力で生きてみたいんです。」
愛菜の真剣な目を見つめ、大翔は頷いた。
「お前が望むなら、それを応援する。でも、俺のことを忘れるなよ。」
その言葉に、愛菜は少しだけ赤面しながら微笑んだ。
大翔の想い
その日の夜、大翔は一人でバルコニーに立っていた。夜景が広がるタワーマンションの最上階から見える街並みは、美しいがどこか冷たい印象を受ける。
彼の頭の中には、愛菜の笑顔が浮かんでいた。
「お前は本当に特別だ。」
大翔の胸の中には、愛菜への独占欲と愛情がますます強くなっていくのを感じていた。
彼は手にしたグラスのワインを一口飲み、決意を新たにした。
「どんなことがあっても、愛菜を守る。それが俺の役目だ。」
- 和也の足掻き
一方で、和也は完全に諦めきれていなかった。彼は愛菜のことを思い出すたびに、嫉妬と執着が膨れ上がっていく。
「あんな男に負けるなんて、認められるわけがない。」
彼は愛菜を取り戻すための新たな計画を練り始めた。それは、大翔の秘密を暴こうとするものだった。
しかし、和也の行動はすでに大翔の手のひらの上だった。
数日後、大翔は愛菜を連れて、ある場所に出かけた。それは、西園寺家の別荘だった。都会から離れた静かな湖畔に建つその場所は、愛菜にとって初めての体験だった。
「ここ、すごく綺麗……。」
湖面が夕陽に照らされ、黄金色に輝いている。
「お前が少しでも心を休められる場所が欲しかったんだ。」
大翔の言葉に、愛菜は胸が温かくなるのを感じた。
彼は愛菜の手を取り、静かに囁いた。
「これからも、俺の隣で笑っていてくれ。」
愛菜はその言葉に頷きながら、大翔への信頼をさらに深めていった。
第十章 和也の逆襲
愛菜が湖畔の別荘で大翔と穏やかな時間を過ごしていたころ、都会では孝也が動き始めていた。彼の執着はもはや理性を超え、復讐心と嫉妬が渦巻いていた。
「西園寺大翔か……あいつにすべてを奪われるなんて、絶対に許せない。」
和也は大翔の家族や事業に関する情報を調べ上げるべく、探偵を雇い調査を開始した。
彼が手に入れた情報の中には、大翔が密かに進めている海外の大型プロジェクトや、西園寺家の微妙な内紛についての断片的な情報が含まれていた。
「これを使えば、大翔を追い詰められる……。」
和也は不敵な笑みを浮かべながら、手元の資料を握りしめた。
二人の平穏を揺るがす影
愛菜と大翔が別荘で過ごした最後の夜、愛菜はベッドの中で彼に問いかけた。
「大翔さん、どうして私にここまでしてくれるんですか?」
その問いに、大翔はしばらく考える素振りを見せた後、穏やかに答えた。
「お前は、俺にとって唯一無二の存在だからだ。俺はこれまで何もかも手に入れてきたが、心から欲しいと思えるものはなかった……お前に出会うまではな。」
彼の言葉に、愛菜の胸が熱くなる。彼の強い独占欲の裏側に隠された純粋な愛情が伝わってきたからだ。
その瞬間、愛菜の携帯が鳴り響く。表示された名前を見て、彼女の表情が一変した。
「元カレか……?」
彼からの着信に、愛菜は困惑しながらも電話を取るべきか迷った。
「取るな。」
大翔が低い声で制止する。
しかし、その後すぐに愛菜のメールアプリにメッセージが届いた。画面に表示された文面を見て、愛菜は青ざめる。
「会いたい。話したいことがある。君も知るべきだと思うから。」
そのメッセージには、大翔が西園寺家の御曹司であることを示唆する内容が含まれていた。
試される絆
翌日、愛菜と大翔は一緒にマンションへ戻った。だが、玄関前で二人を待ち伏せていたのは、和也だった。
「愛菜、少しだけ時間をくれないか。」
彼は大翔を睨みつけながら、必死に愛菜に話しかける。
「何のつもりだ?」
大翔が一歩前に出て孝也と向き合う。
和也は冷笑を浮かべながら、大翔に資料の束を突きつけた。
「これを見ろ。お前が守ろうとしている“完璧な人生”の裏側を、彼女にも見せてやるべきだと思ってな。」
大翔の顔が険しくなる。和也の言葉に反応することなく、愛菜の手を取り中に入ろうとするが、愛菜はその場に立ち止まった。
「待って、大翔さん。私は……これを知るべきなのかもしれません。」
愛菜の言葉に、大翔はしばらく黙った後、静かに彼女を見つめた。
「愛菜、お前が知りたいなら、俺から話す。」
その言葉に、和也は焦りを見せた。彼の計画は大翔を追い詰めることで、愛菜との間に亀裂を入れることだったからだ。
大翔の告白
部屋に戻った大翔は、愛菜に向き合いながら語り始めた。
「俺は確かに、西園寺グループの御曹司で、何もかも手に入れてきた。だが、それが全て簡単だったわけじゃない。」
彼はこれまでに背負ってきた家族の期待や、裏切り、孤独について語った。そして、和也が突きつけた資料の一部は確かに真実だが、それは歪められた形で公に出された場合、大翔自身の立場を危うくするものだった。
「愛菜、お前だけは俺の本当の姿を見てほしい。」
その言葉に、愛菜は深く息をつきながら頷いた。
「大翔さんが何を抱えていようと、私はあなたを信じます。でも、孝也さんがどうしてここまでしてくるのか、彼の気持ちも整理したい。」
愛菜の真摯な態度に、大翔は複雑な表情を浮かべながらも、彼女の手を強く握った。
「お前がそうしたいなら、俺は止めない。ただし、何があっても俺が守る。」
第十一章 和也の告白
愛菜は翌日、和也と会うことを決めた。場所は彼が指定したBar Casaの個室だった。かつて何度か訪れたことのある場所が、今は重苦しい空気を纏っているように感じられる。
和也は愛菜が席に着くなり、静かに口を開いた。
「来てくれてありがとう。でも、俺がこんな形で君を呼び出したこと、まずは謝らせてほしい。」
愛菜は複雑な表情を浮かべながら頷いた。
「和也、どうしてこんなことをしたの?私たちはもう別れたはず。」
和也は一瞬、目を伏せたが、すぐに愛菜を見据えて言った。
「別れたくなかったんだ。あの時の俺は間違いを犯した。けれど、君を失ってから気づいたんだよ。君が俺にとってどれほど大切な存在だったかを。」
「……その気持ちは受け取れない。」
愛菜の声は震えていたが、言葉ははっきりとしていた。
和也は苦笑しながら続けた。
「分かってる。君が俺を許さないのは当然だ。でも、君が選んだ男――西園寺大翔は、本当に信じられる相手なのか?それを知ってほしいんだ。」
和也は例の資料を再び取り出し、愛菜の前に置いた。
「これには、彼の家族が抱える問題がすべて書かれている。大翔が表向きどれだけ強く見えても、彼は西園寺家という巨大な組織の一部にすぎない。そのプレッシャーに耐え切れると思うか?そして、君を守り切れると思うか?」
愛菜は資料に目を落とした。確かにそこには、大翔が抱えると思われる家族間の争いや、事業にまつわる問題が詳細に記されていた。
「……こんなことをして、何になるの?」
愛菜の声は悲しみに満ちていた。
和也は静かに笑みを浮かべたが、それはどこか諦めの色を含んでいた。
「俺はただ、君に幸せになってほしい。それが俺のそばじゃなくても構わない。けど、君が苦しむ未来が見えるのなら、それを止めたいんだ。」
愛菜の決断
その日の夜、愛菜は大翔のタワーマンションに戻った。彼女の表情を見て、大翔はすぐに異変を察した。
「あいつと話したのか?」
愛菜は黙って頷き、孝也から見せられた資料のことを話した。
「大翔さん、あの資料に書いてあること、本当なんですか?」
愛菜の声には不安がにじんでいた。
大翔は愛菜をソファに座らせると、自分も隣に腰を下ろした。
「半分は事実だ。そして半分は誇張だ。俺が背負っているものが大きいのは間違いない。それが原因でお前を危険に巻き込む可能性だってある。」
大翔の言葉は誠実だった。彼は愛菜の目を真っ直ぐに見つめながら続けた。
「それでも、俺はお前を守りたいと思ってる。どんな代償を払っても。」
愛菜はしばらく黙り込んだ後、静かに口を開いた。
「私は、あなたのことを信じます。」
その言葉に、大翔は息をつき、愛菜をそっと抱きしめた。
「ありがとう、愛菜。俺はお前を絶対に手放さない。」
しかし、和也の行動はまだ終わっていなかった。彼は手段を選ばず、大翔の会社の重要な取引に干渉しようと画策していた。
大翔の秘書からその動きを聞いた彼は、すぐに対策を講じ始める。
「あいつ……ここまでやるのか。」
愛菜との未来を守るため、大翔は自身の力とネットワークをフルに活用し、和也の暴走を食い止めることを決意する。
第十二章 崩れゆく均衡
愛菜は大翔と暮らす日々の中で、少しずつ心の平穏を取り戻していた。けれども、その静かな日常に不穏な影が差し込むのは、そう遠くなかった。
大翔はある日、朝食を食べながら何気なく言った。
「今日、ちょっと重要な会議がある。俺の会社と西園寺グループ全体の未来を左右するかもしれない話だ。」
愛菜は心配そうに顔を曇らせた。
「そんな大事な話、大丈夫なんですか?何かあったら教えてくださいね。」
大翔は笑みを浮かべ、愛菜の頭を軽く撫でた。
「お前には何も心配させないよ。でも、ありがとう。」
会議が終わった夜、大翔は疲れた表情を浮かべながら帰宅した。愛菜が差し出した紅茶を受け取りながら、彼は低い声で話し始めた。
「あいつが動いていた。」
愛菜は驚きに目を見開いた。
「えっ……?」
「俺たちが進めていた重要な取引に、彼が割り込んできた。直接的な攻撃というわけじゃないが、裏で取引先に情報を流して動揺を与えようとしていた。」
愛菜は唇を噛みしめた。和也の執念深さに怖さを感じると同時に、大翔が巻き込まれていることに申し訳なさを覚えた。
「私が彼に会わなければ、こんなことには……」
愛菜がそう呟くと、大翔は首を振った。
「違う。これは俺の問題だ。お前のせいじゃない。」
大翔は一瞬の沈黙の後、真剣な表情で続けた。
「でも、これ以上は放っておけない。あの男を止めるために、俺も動く。」
- 翌日、大翔は孝也を呼び出した。二人が向き合ったのは、高層ビルの会議室だった。和也は笑みを浮かべながらも、その目は冷たかった。
「よく呼び出す気になったな、西園寺。俺に勝てるとでも思っているのか?」
大翔は冷静なまま言い放った。
「お前のやり方がどれだけ汚かろうと、俺は正攻法で勝つ。それに、愛菜はもうお前のものにはならない。」
孝也の表情が一瞬険しくなったが、すぐに元の余裕を取り戻した。
「そうだな、愛菜はもう俺を拒絶した。でもな、大翔、俺が失ったものをお前も失えばいい。」
その言葉に、大翔の眉がピクリと動いた。だが、感情を抑え、冷たい声で返す。
「お前がどんな手を使っても、俺は倒れない。そして、愛菜を守る。」
その頃、愛菜もまた、自分自身の行動を見つめ直していた。大翔や孝也のように、自分を巡って争う人々をただ見ているだけではいけないと感じたのだ。
「私は……ただ守られるだけじゃなく、大翔さんを支えたい。」
愛菜は思い立ち、大翔の秘書に連絡を取った。そして、大翔の会社が抱える現状や、彼の負担について詳しく話を聞いた。秘書は驚きつつも、愛菜の真剣さに押されてすべてを語った。
「大翔さんを助けるために、私にできることはありますか?」
秘書は一瞬迷ったが、小さく頷いた。
「実は、取引先の一つがまだ説得に応じていません。愛菜さんが直接話してみるのはどうでしょうか。」
愛菜はその提案を受け入れた。
第十三章 愛菜の挑戦
愛菜は秘書から受け取った情報を元に、大翔の取引先の一つである「旭貿易」のオフィスを訪れた。緊張を抱えながらも、彼女の目には決意が宿っていた。
受付で名乗ると、担当者の佐藤が現れた。中年の男性で、やや厳しそうな顔つきだった。
「西園寺専務の代理ですか?若い女性が一人で来るなんて、少し意外ですね。」
佐藤の皮肉交じりの言葉にも、愛菜は笑顔を崩さなかった。
「本日はお時間をいただきありがとうございます。西園寺専務がいかに誠実にお取引を考えているか、お伝えしたく参りました。」
会議室に案内されると、愛菜は用意していた資料を見せながら熱心に説明を始めた。
「こちらが新規事業の概要です。この計画は貴社との連携なくしては成立しません。しかし、双方が利益を享受できる仕組みを緻密に設計しています。」
愛菜の真摯な態度と的確な説明に、佐藤の表情が次第に和らいでいった。
「なるほど……。確かに興味深い話だ。だが、先日、別の方から少々気になる情報を耳にしたのだが。」
佐藤の「別の方」という言葉に、愛菜は一瞬心拍数が上がった。それが誰を指すか、すぐに察したからだ。和也が裏で動いているのだろう。
「その情報はおそらく誤解かと思います。」愛菜は毅然とした態度で答えた。「西園寺専務は会社とお取引先の未来を真剣に考えています。不透明な噂に惑わされるよりも、専務自身の行動を見ていただきたいのです。」
佐藤は少し考え込むような仕草を見せたが、最後には小さく頷いた。
「わかった。一度専務と直接話をさせてもらおう。今回のあなたの行動には感心した。」
夜、大翔の自宅に戻った愛菜は、玄関で出迎えてくれた彼に笑顔を見せた。
「取引先と話してきました。佐藤さん、直接お話したいって言ってましたよ。」
大翔は驚きの表情を浮かべ、次第に口元に笑みを広げた。
「お前がそこまでやるとは思ってなかった。本当にありがとう。」
大翔は愛菜を抱きしめ、その頭を優しく撫でた。愛菜の頑張りに心から感謝しているのが伝わってきた。
「でも……危ない橋を渡るなよ。愛菜に、これ以上手を出してきたら許さない。」
大翔の声には静かな怒りが滲んでいた。
その夜、愛菜の携帯に和也からメッセージが届いた。
>「愛菜、あの男に利用されているだけだ。君はもっと大切にされるべきだよ。俺のところに戻っておいで。」
愛菜は画面を見つめ、心がざわついた。和也の言葉には巧妙な甘さが混じり、彼の意図が見え隠れしていた。
「何かあったのか?」
背後から大翔が声をかけてきた。愛菜は躊躇いながらも、メッセージを見せた。
大翔の目が鋭く光り、低い声で言い放った。
「こいつ、まだ諦めてないのか。」
第十四章 揺れる心
和也からのメッセージを見せた後も、大翔の怒りは収まらなかった。リビングのソファに座る愛菜を前に、大翔は深く息を吐いてから口を開いた。
「これ以上、あいつに連絡を取らせるわけにはいかない。番号を変えたほうがいい。」
「そこまでしなくても……。」愛菜は大翔をなだめようとしたが、その言葉に彼の眉間が寄った。
「愛菜、俺を信用してないのか?」
その一言に、愛菜ははっとした。彼の目には、不安と独占欲が入り混じった感情が映っている。自分のためにこれほどまでに感情をむき出しにする人を、愛菜は初めて見た気がした。
「信用してるよ。でも、そこまでしなくても私は大丈夫だと思うの。」
愛菜の柔らかな声に、大翔の怒りは少し和らいだ。
「わかった。けど、あいつがまた何かしてきたら、俺が必ず守るから。」
大翔のその言葉には、強い決意と愛が込められていた。
和也の策略
翌日、愛菜は仕事に向かう途中、またしても和也からメッセージが届いた。
>「愛菜、今夜少しだけ会えないか?話したいことがあるんだ。」
冷たい汗が背中を伝う。会うべきではないと分かっていながらも、和也の言葉にはどこか不安を煽るような響きがあった。
「無視しよう……。」そう呟き、愛菜は携帯をカバンの奥深くにしまい込んだ。
だが、その日の夜、自宅マンションのエントランスで待っていたのは――和也だった。
「愛菜、話を聞いてほしい。」
彼は真剣な表情を浮かべていた。
「どうしてここに……。」愛菜の声は震えていた。
「連絡が取れないから、仕方なく来たんだ。君に謝りたい。あの日のこと、本当に悪かったと思ってる。」
和也は頭を下げた。その姿に、愛菜の胸はざわついた。だが、その瞬間――
「何してる?」
背後から低い声が響いた。振り向くと、大翔が腕を組んで立っていた。
激突する男たち
孝也が顔を上げると、大翔はゆっくりと歩み寄った。
「愛菜に近づくなと言ったはずだ。」
孝也は一瞬たじろいだが、すぐに挑発的な笑みを浮かべた。
「彼女が俺に会いたがってるかもしれないだろう?そんなに必死になるなよ。」
その言葉に、大翔の表情が冷たく引き締まる。
「俺の女に触れる資格が、お前にあると思ってるのか?」
孝也は目を細めて答えた。
「俺の女だったのを、奪ったのはそっちだろう?」
二人の間に火花が散るような空気が漂った。愛菜は慌てて二人の間に割って入る。
「やめて、二人とも!」
だが、大翔の怒りは収まらない。
「愛菜、部屋に入れ。」
「でも……。」
「いいから入れ。あいつとは俺が話をつける。」
愛菜は迷った末に、大翔の言葉に従って部屋に戻った。ドア越しに聞こえる二人の低い声が、心臓を締め付けるように響いた。
愛の告白
数十分後、大翔が戻ってきた。彼の顔には少し疲れた様子が見えたが、愛菜を見るといつものように優しく微笑んだ。
「もう心配いらない。あいつには話をつけた。」
「何を言ったの……?」
「そんなことはどうでもいい。」大翔は愛菜の手を取り、自分の胸元に引き寄せた。
「俺には、お前さえいればそれでいい。愛菜、俺のそばにずっといてくれ。」
突然の告白に、愛菜は言葉を失った。胸が熱くなるのを感じながらも、素直に応える勇気はまだなかった。
「……考えさせて。」
大翔は少し寂しげに微笑んだが、無理に答えを求めることはなかった。ただ、愛菜の手をしっかりと握り締める彼の手は、何よりも温かかった。
第十五章 揺れる感情
大翔からの告白を受けた夜、愛菜はなかなか眠れなかった。ベッドに横たわりながら、天井を見つめる。
**「俺のそばにずっといてくれ」**
彼の真っ直ぐな瞳と言葉が何度も頭の中を巡り、胸がぎゅっと締め付けられる。
「……私は、どうしたいんだろう。」
これまで、仕事一筋で生きてきた。恋愛は自分にとってそれほど重要ではないと思っていたし、情熱的な感情に突き動かされるなんて無縁だと思っていた。
だが、大翔と過ごす時間が増えるにつれ、自分が彼をどう思っているのかに気づき始めている自分がいた。
翌日、出社した愛菜を待っていたのは、同僚たちの好奇の目だった。廊下を歩くと、遠くから聞こえてくるひそひそ話が耳に入る。
「加賀美主任、最近よく電話してるよね。もしかして彼氏できた?」
「えー、本当?でもあの人、いつも仕事優先だから恋愛なんてしなさそうだけど。」
愛菜は軽くため息をついた。最近、大翔から頻繁に連絡が来ることもあって、同僚たちに気づかれたのだろう。
その日はやけに仕事がはかどらなかった。心の中でぐるぐると回る大翔の言葉、和也の存在、そして自分の気持ち――そのすべてが愛菜を乱していた。
仕事が終わり、自宅へと向かう途中、愛菜のスマホにまたしても孝也からのメッセージが届いた。
>「話したいことがある。どうしても無理なら電話だけでもいいから。」
愛菜は眉間に皺を寄せた。しつこくメッセージを送ってくる彼に嫌悪感を覚えながらも、一方で彼がここまで執着する理由がわからなかった。
しかし、その考えはすぐに途切れた。
「またあいつか?」
後ろから聞き慣れた声がした。振り向くと、そこには大翔がいた。彼はスーツ姿で、会社帰りのようだった。
「……どうしてここに?」
「今日は外で会いたい気分だったから。もしかしたらお前も会社帰りに一人かと思ってな。」
大翔は愛菜のスマホに視線を落とし、メッセージを見たことを悟ると、少し眉をひそめた。
「もう完全に番号を変えるべきだな。」
「そこまでする必要は……。」
「愛菜、俺に任せろ。」
彼の強い口調に、愛菜は反論することができなかった。
その夜、大翔は愛菜をディナーに誘った。彼が選んだのは、落ち着いた雰囲気の隠れ家的なレストランだった。
「こうやってゆっくり話す時間も、意外と少なかったな。」
ワイングラスを軽く揺らしながら、大翔が口を開いた。
「いつも俺が強引に話を進めるから、お前には考える余裕がなかったかもしれない。」
彼の真摯な言葉に、愛菜の胸が温かくなった。
「でも、俺は本気だ。愛菜がどう思っているのか、ゆっくりでいいから考えてくれ。」
愛菜は軽く頷いた。
第十六章 決意のとき
愛菜の心は、徐々に大翔へと傾いていた。彼の優しさ、強さ、そして揺るがない愛情が、自分の中の迷いを一つ一つ溶かしていく。
そんなある日、大翔の自宅で二人で過ごしていると、インターホンが鳴った。
「あいつかもしれない。俺が対応する。」
愛菜の顔が一瞬固まる。大翔は愛菜をリビングに残し、玄関へと向かった。
「西園寺、久しぶりだな。」
ドアの前に立っていたのは、やはり和也だった。
「お前、何を考えている?」
冷静な声の大翔とは対照的に、和也の表情は余裕を失っていた。
「愛菜はお前と一緒にいると幸せになれない。お前がどんなに裕福だろうが。」
「浮気した男が、愛菜の幸せを考えての行動だとでも言いたいのか!こんなことをして、愛菜が苦しむとは考えてないんだな。
お前に愛菜の幸せをとやかく言う資格なんてない!」
その言葉に和也の顔が歪む。
「浮気はほんの出来心で間違えだったとは分かってる」
大翔は深く息をつき、一言だけ告げた。
「愛菜の選択を尊重する。それが男として最低限の礼儀だ。
彼女の幸せとか言って、本当はお前がただ愛菜を諦めきれないだけだろう?
愛菜は本当に良い女だからな。
でも、愛菜にはもうお前への気持ちなんかこれっぽっちも残っていないぞ。
お前も気づいているだろう?
本当に彼女の幸せを心の底から想うのであれば、これまでの行動を反省し、金輪際彼女には近づくな。
愛菜は俺が幸せにする。」
和也はしばらく言葉を失い、その場を去った。
大翔がリビングに戻ると、愛菜は緊張した面持ちで立っていた。
「和也だったの?」
「ああ。でも、もう二度と来ないだろう。」
大翔がそう言うと、愛菜は小さく息を吐き、彼の目を見つめた。
「……ありがとう、守ってくれて。」
その一言に、大翔は思わず愛菜を抱きしめた。
「俺はお前のすべてを守りたい。それがどんな困難でも、どんな過去でも。」
彼の腕の中で、愛菜は涙を流した。
「私、大翔のことが好き。こんなに真剣に誰かを好きになったのは初めて。」
その言葉に、大翔は驚きと喜びが入り混じった表情を浮かべた。
「愛菜……。これからも俺のそばにいてくれ。」
愛菜は頷き、二人の唇が静かに重なった。
エピローグ:新たな未来へ
数ヶ月後、大翔と愛菜は新居で新たな生活をスタートしていた。愛菜は仕事を続けながら、大翔の支えを受けて充実した日々を送っている。
和也は仕事に専念し、少しずつ愛菜への想いを手放しつつある。
愛菜と大翔の関係は、表面的なものではなく、深い絆で結ばれていた。二人は互いを尊重し合いながら、新たな未来を共に歩む。
「これからも、ずっと一緒にいよう。」
大翔の言葉に、愛菜は笑顔で頷いた。彼らの物語は、ここで一区切りを迎えるが、二人の愛はこれからも永遠に続いていくのだった。
ーFinー
最後までご覧いただき、ありがとうございました!
幾多の試練や葛藤を経て、2人がお互いにかけがえのない存在となり、強い絆で結ばれるストーリーにしようとしたら、少し和也がしつこくなってしまいました・・・。
次回作は、オフィスラブ・後輩と上司の三角関係をテーマに描きたいと思います!
お楽しみに!
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